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第3回:デジタルエンゲージメント×生成AI 3K(経験、勘、感覚)からの脱却

第1回、第2回では、生成AIの社内活用推進について、トップダウンアプローチ、ボトムアップアプローチをご紹介してきました。ここからは、社内での活用推進から少し離れ、筆者の専門領域であるデジタルエンゲージメントにおける生成AIの活用方法についてご紹介します。



デジタルエンゲージメントについて

デジタルエンゲージメントもしくはデジタルカスタマーエンゲージメントとは、デジタルチャネルを中心とした顧客との関係を、戦略的に企画、実践することを指します。私としてはデジタルマーケティングの上位概念ととらえており、デジタルチャネルで完結しない施策もこの中には含むと考えています。 

「デジタル」というだけあって、施策を考える過程で、顧客のアクティビティ(ウェブ、メール等)やABテスト結果など、様々なデータ分析が行われていますが、人間の「3K(経験、勘、感覚)」に頼る部分が存在しているのも事実です。

例えば、顧客のウェブ上の行動履歴を分析し、顧客の関心の高いコンテンツをピックアップしたとします。この顧客ごとの閲覧コンテンツリストはデータであり、紛れもない事実として存在します。しかし、このコンテンツリストから、顧客の興味関心事項を推定し、次のコンテンツを考え、最終的なコンバージョンに繋げていく過程に、多くの3Kが介在しています。特に、金融領域のコンテンツは、専門用語などの前提知識が必要とされる内容が多くなる傾向があることから、経験豊富な担当者に依存する傾向があるように思います。

デジタルエンゲージメントへの生成AIの活用

今年から、生成AIを活用することで、担当者への依存をなるべく減らし、持続可能なデジタルエンゲージメントを目指す取り組みをいくつかスタートしています。今回は、デジタルエンゲージメントの施策ごとに、どのように生成AIの活用を進めているか、ご紹介します。

まず、当社が行っている主なデジタルエンゲージメントを表にしました。
左側の集客から始まり、顧客獲得、その後の取引継続・深耕のためのリテンションのための施策と並べています。それぞれの場面においてどのように生成AIを活用しているのか、または活用の可能性があるのかを解説していきます。

     目的 手段集客顧客獲得リテンションブランディング認知リード獲得ナーチャリングコンバージョンリピーター獲得取引拡大メール メルマガ広告 メルマガターゲティングメールメルマガターゲティングメールWeb広告 ディスプレイ広告リスティング広告リターゲティング広告   オウンドメディア企業・社員紹介(SEO)時事ネタ解説(SEO) サービス解説開発裏話 時事ネタ解説ウェビナー  時事ネタ解説サービス解説 時事ネタ解説顧客インタビュー
筆者の考えるエンゲージメント施策一覧


■デジタルエンゲージメントにおける活用例① 集客

集客のタイミングでは、多くの露出が求められますので、効率的に多くのコンテンツを配信していく必要があります。当社ではオウンドメディアにおけるSEO対策に特に注力しており、コンテンツ制作のスピードアップのために生成AIを活用しています。 

●【事例】バナー等のビジュアル作成への活用

コンテンツ制作の際にバナーやサムネイル画像といったビジュアル作成作業があります。クオリティが求められる場面では、Adobe IllustratorやAdobe Photoshopを使いますが、スピードや数が求められるような場面では、Adobe Fireflyをよく使います。
他にも数多くの画像生成AIサービスが存在しますが、著作権上のルールが明確に定められていることがAdobe Fireflyの強みの一つではないでしょうか。

Fireflyを始めとした生成AIを使うことのメリットは、先ほど述べたスピードや効率性以外にもあります。
筆者が一番のメリットと感じているのは、画像のニュアンスやテイストを言語化することで、他のチームメンバーにも伝えやすくなるという点です。

例えば、インフレをテーマにした学習系のコンテンツに合わせたサムネイル画像を作成する場面を想定します。従来であれば、ストックフォトの中から「インフレ」「学習」「シンプル」のようなキーワードでイメージに近い画像を探し出し、よりイメージに近づけるための加工をAdobe Photoshopなどを使用して行っていました。
このような方法でサムネイルを作成する場合、作成者自身は作成過程を認識しているので、別の場面で同様のサムネイルを作成する際にも再現できる可能性が高いのですが、他のメンバーに作成を依頼する際は、イメージが上手く伝わらず苦労しました。

一方で、生成AIであれば、プロンプトをそのまま共有することで、作成過程を再現することができます。
「資産運用を検討している個人に向け、インフレについてわかりやすく伝えるための教育系コンテンツのサムネイル画像を作成してください。シックな色調で、シンプルな画像にしてください。なお、人物は使用しないでください。」というように、過程を文字で理解することにより、他のメンバーが同様の作業を行う際にも、プロンプトを連携するだけですぐに着手できるようになります。

同様のことは、Excel/Python(や他のプログラミング言語)でも同様のこと(Excelは便利な関数が数多くあり利便性が高い一方で、Pythonは分析・計算過程を可視化できる点がメリット)が言われますが、二人以上のチームで仕事をしているようなケースでは、「業務過程の共有のしやすさ」を意識することで業務再現性を高め、メンバーが変わることでクオリティが極端に変化することをなるべく避けられるのではないでしょうか。

Fireflyで作成した画像

■デジタルエンゲージメントにおける活用例② 顧客獲得

最も3K(経験、勘、感覚)が求められるのが、リード獲得から顧客転化へのタイミングです。
特にリードの属性がある程度可視化されている場合、その属性(例えば、機関投資家など)に関するビジネスへのかかわりが深い人間ほど、分析の精度が高く、より的を射た施策を考えられるのも事実です。
当社では、なるべく経験者に依存せず、リード顧客の行動履歴分析から興味関心事項を推測する仕組みの構築を行っています。

●【事例】メルマガに対するユーザーアクションから、ユーザーの興味・関心事項を推測

当社では法人顧客(リード含む)にメルマガを配信しており、開封やクリックなどのアクション結果に応じて、ユーザーの興味・関心事項の推測を行っています。主な手順は以下の通りです。
①    配信したメルマガのアクション(開封、リンククリック、ログイン)に応じて値(ウェイト)を設定
②    ユーザーごとに、アクションに応じたスコアを設定
③    配信メルマガのタイトル、本文を取得し、②のスコアデータと合わせて生成AIを活用した分析を実施し、ユーザーごとの興味関心事項を推測

①②については多くの企業で同じような分析を実施した経験があるのではないでしょうか。
ユーザーの興味のあるコンテンツやメールのタイトルを表にし、担当者がその表を眺めながらユーザーの興味関心事項を推測する方法です。この方法のみで分析を行う場合、以下のようなリスクがあります。

・担当者自身が現在興味のある事柄が、分析結果に影響するリスク

担当者の頭の中でホットな話題が存在する場合、筆者の経験上、ユーザーの興味関心事項をその話題に近づけようとする傾向があるように感じます。これはリスクだけでなく、時流にあったコンテンツを提供できるメリットもあります。

・コンテンツ読み違い、見逃しリスク

人間が大量のコンテンツを全て読み込み、全てを正確に内容を理解したうえで、ユーザーの興味関心事項を推測するのは至難の業です。こちらも筆者の経験上、多くの担当者は、まず自分で仮説を立て(今は米国の大統領選挙に興味を持つ顧客が多いはずだ、など)、実際にユーザーがアクセスしたコンテンツ群と照らし合わせて、そのユーザーが仮説とどのくらいの距離にいるのかを感覚としてつかみ、興味関心事項を推測しているケースが多いように思います。

仮説とユーザーの距離を測る際の精度は、繰り返しになりますが、コンテンツをどれだけ正確に読み込めるかによるわけですが、執筆した本人以外がその内容を正確に理解するのは非常に難しく、そこに読み違いや見逃しのリスクが存在します。

生成AIを活用することで、上記のリスクを軽減し、より正確なユーザーの興味・関心事項の推測が可能となります。生成AIは大量のデータを迅速かつ正確に処理し、パターンやトレンドを見つけ出す能力に優れています。これにより、担当者が見逃しがちな細かな興味の変化や、潜在的な関心事項を発見することができるはずです。

生成AIをうまく活用しながら、デジタルエンゲージメントを効率化、高度化

生成AIが得意な領域については生成AIに任せつつ、人間はより付加価値の高い業務に集中する。例えば、生成AIにより定量化した分析結果をもとに、人間は従来にはない新規コンテンツを考え出すという業務に注力することで、デジタルエンゲージメントのレベルアップが可能になるのではないでしょうか。

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・当資料で、筆者の紹介のある記事においては、掲載されている感想や評価はあくまでも筆者自身のものであり、ニッセイアセットマネジメントのものではありませんが、ニッセイアセットマネジメントと筆者との間でこれらの表示に係る情報等のやり取りを直接的又は間接的に行っているため、実質的にはニッセイアセットマネジメントの広告(「不当景品類及び不当表示防止法」におけるニッセイアセットマネジメントの表示)等に該当する場合がございますので、ご留意願います。


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