いつ来るか分からない株価急落。落ち着いて行動するために今から準備すべきこと
身の危険を感じたら・・・
北海道での登山中、熊出没注意の標識がある茂みで、何か大きな物音や揺れがあったとします。あなたなら、次の二つの行動のうち、どちらを選びますか?
1)熊なのか、風なのか・・・、しっかり確認して行動する
2)とっさに逃げる
2)を選んだ方が多いのではないでしょうか?
とっさに逃げる行動を取らないと、生き残れなかった狩猟時代の名残から、現代でも本能として「危険からはとっさに逃げる」行動をとりやすいと言われています。
慎重にゆっくり行動していた動物が絶滅し、とっさに体が反応して危険から逃げる動物が生き残る。
人間が生き残った理由の一つが、恐怖心を持つことで危険を回避してきたからとも言えるのです。
しかし実際には、「とっさに逃げる」のではなく、状況を見極めて「落ち着いて行動する」ことの方が大切なようです。
https://www.shiretoko.or.jp/higumanokoto/bear/bear2/
金融危機時に損失拡大の危険を感じたら・・・
世界の株価は長期では経済成長に連動し、上昇する傾向にありました。人間の豊かになりたいという思いから、企業はそれに応えてビジネスを行い、企業(株価)も経済も拡大してきました。
しかしながら、その間に何度かの株価大暴落が起こっています。1987年のブラックマンデー、1990年代の日本のバブル崩壊、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックなど。株価が大きく下落した際、「中長期的に株価は上昇してきたので、資産運用を続ける方が良い」と感じつつ、損失拡大の「危険からとっさに逃げる」行動、いわゆる狼狽(ろうばい)売りをしてしまう投資家も多かったというのが今までの印象です。
そして、狼狽売りが株式市場全体に広がると、売りが売りを呼ぶ悪循環に陥り、株価急落を招いてきました。
金融危機における投資行動の違い
金融危機「リーマン・ショック」時における投資行動が、「投資手法」の違いによって異なっていたことを示すデータがあります。
Aという投資手法を取っていた投資家のうち、50%の人は、資産全額もしくは株式全額を売却しました。また、10%の人は、株式比率を25%以上削減するなど、株式などの値動きが大きいリスク資産を売却する傾向にありました。
一方、Bという投資手法を取る投資家のうち、75%の人は売買を行わず様子見、20%の人は追加の資金を投入しました。
AとBでは真逆の投資行動を取っていたのです。
出所)月刊資本市場2016.11「我が国の資産運用の質的向上に向けて」よりニッセイアセット作成https://www.camri.or.jp/files/libs/146/201703241648267867.pdf
狼狽売りを抑えるゴールベースアプローチとは
AとBの投資戦略の違いは何でしょうか。
Aは伝統的な投資戦略である「マーケットベースアプローチ」、Bは「ゴールベースアプローチ」と言われる投資戦略です。
「マーケットベースアプローチ」では、主に投資対象市場の魅力度・見通し、過去の運用実績等を基に、いかに安定的に高いリターンを獲得できるかという観点で投資判断を行います。そのため、リーマン・ショックのような金融危機による株価下落時には不安に陥り、投資対象市場の魅力度が低下したと認識し、資産売却の投資判断を行うことも多くなります。
一方「ゴールベースアプローチ」は、
① ライフプランにおける資産運用の目標(ゴール)の設定
② それに基づいた資産運用計画の策定
③ 目標に向けた進捗状況の継続的なフォローアップ
④ 適宜、目標や資産運用計画を見直す
という一連のアプローチを言います。
例えば、老後資金として65歳に2,000万円を貯めるという目標(ゴール)を設定したとします。年齢(投資期間)や資産の状況(投資金額)、許容できる価格変動リスク等を踏まえて資産運用計画を策定し、運用を始めます。
定期的に実施する運用開始後のフォローアップでは、目標(ゴール)に対しての現在の進捗状況を確認した上で、目標や資産運用計画の見直しを適宜行います。
例えば、想定よりも運用が良好なケースでは、より安定的な運用戦略への変更や運用期間の短縮などの運用見直しが考えられます。
一方、金融危機時のような想定よりも運用が良くないケースでは、増額やより高いリターンを求めた積極的な運用戦略への変更、運用期間の延長などが考えられます。
このとき、従来のマーケットベースアプローチで50%以上の人が行った株式などの値動きが大きいリスク資産を売却する運用見直しは、ゴールベースアプローチの投資戦略で取られる投資行動としては一般的に想定されていません。このように同じ局面でも投資手法の違いによって、投資行動は大きく変わることがあり得るのです。
最後になりますが、資産運用する中では、当然足もとの損益状況が気になりますし、また定期的に確認する必要があります。損失が発生した場合、それを取り戻せるのか、見通しはどうなのかに関心が向くのが一般的です。その場合、短期的な市場の動向を予測するのは難しいですが、中長期では世界の株価は経済成長に連動し、上昇する傾向にあったことを思い出しましょう。
そして、いつ来るか分からない株価急落時に狼狽売りしないために、改めて資産運用を始めた目的を思い返したり、ライフプランにおける資産運用の目標(ゴール)を設定してみてはいかがでしょうか。
【筆者紹介】
竹原浩太郎:大手証券会社入社後、リテール営業として支店に配属。その後、ニッセイアセットマネジメントに入社。年金部門のディスクロ作成、RM業務、投信部門の資料作成等に従事。
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