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967kmを走りながら老後生活資金の準備について考えてみた(4)【葛藤編】

今回のような超長距離を走ると、いろいろな方から質問を受けます。

ランニングの習慣のある方からは何を使うかといったギア/装備の質問が多いのですが、
ランニングと無縁の方からは「走りながら何を考えているんですか?」といったものが圧倒的に多いです。
そういえば何を考えているんでしょう?


何も考えていない。でも、それが普通?

(スタートから880km、福井県美浜町(関峠)。夜間走行は先が見えない)

今回のような長時間の活動に限らず、もっと短いフルマラソンなどでも、「何を考えているんですか」という問いには「何も考えていない」と回答しています。

「考える」という行為の捉え方が人によって異なるので、何とも言い難いのですが、
「感じる」とか単に「受容する」、「創造する」とかいったことと区分すると、
「考える」ことって、日常でもそれほど多くはないんじゃないかとも思います。
「あなたは仕事中に何を考えているんですか?」という問いに対して、
「何も考えていない」というと格好悪いですが、
「仕事のことを考える」という答えにならない回答以外に、
どんなことが挙げられるでしょうか?
長時間継続して歩くことは、それと似ているような気がするのです。

今回のような日本海側を巡るコースでは、海岸線を走りながら風景の美しさに感嘆したり、
目の前に迫る山の雄大さに圧倒されたりと感じることは多々ありました。
また、峠越えの上りに閉口したり、逆に下りで膝に衝撃がくるのをこらえたり、という感想や、
歩道のない国道で危機感を覚えたり、とかもありますが、
これも「考える」ではなく、むしろ「感じる」の部類なのでしょう。

畢竟(ひっきょう)、1日十時間以上も歩いていて何を考えているのですか、という問いに対しては、
「(目で観て、耳で聴いて感じることはたくさんあるけれど)考えることは何もない。」
ということになってしまいそうです。
「考える」ことは疲れることでもありますから、
十数時間も継続して歩き続けるときには自ずと機械的に、何も考えずに身体を動かすことが省エネでもあります。

さて、老後生活資金の準備の場合はどうでしょう。


毎日毎日、どうしたら良いかを考えていたら疲れてしまうでしょう。
コースの途中で曲がり角などを地図で確認するように、
1年に1度とか、ライフイベントの都度とか定期的に状況を確認しながらも、
その間は「何も考えない」のが気楽かもしれません。
日々の相場の動きで「勝った」「負けた」と騒いでいては疲れてしまいます。

目標の再設定を考える

(スタートから870km、福井県敦賀市)

とはいえ、何も考えていなかったかといえば、そうでもなく、
今回はレースの後半で目標の再設定について考え続けていました。

前号でお話したように、膝にトラブルを抱えて、1日の休養期間をとったわけですが、完治には至りませんでした。
レース当初の有頂天期に、下り坂を気持ちよく駆け下りていた頃のツケだと思われます。
通常でも走っているときには足(膝)に体重の3倍の衝撃がかかると言われていますが、
今回は5.5kgの荷物を背負っているので、
体重の3倍に加えて更に16.5kg相当の衝撃が膝を襲ったわけです。

ここまで重い荷物を背負って走った経験がなく、想像もしていませんでした。

また、休養明けに頑張りすぎて、また100kmを歩いてしまったせいか、膝をかばって歩いたことで股関節にも不具合が出てしまいました。
とはいえ最初の頃は一旦休憩すればなんとか歩き出せたのですが、
動き出して数キロメートルで激痛が走り、痛み止めが避けられない状態になると、さすがに目標達成の可能性を再検討する必要が出てきました。

富山県富山市到着時点で、残り885km、制限時間まであと363時間(15日と3時間)。

計算上はまだ1日あたり60kmなので達成可能な目標ではあるものの、
当日の痛みから推し量ると「金沢まで行けるかどうかも危うい」といった印象で、
一旦はここでのリタイアも考えたほどです。

ただし、こういった長丁場のレースだと、痛みにも慣れてくることがあるので、
金沢よりもう少し先を見ることにしました。
本州縦断ステージはR7ステージ(青森~新潟)、R8ステージ(新潟~舞鶴)、R9ステージ(舞鶴~下関)の3つに分割されますが、そのR8ステージ終点舞鶴(西舞鶴駅:967km地点)があと300kmほどです。

現時点で可能かどうかはわかりませんが、到達見込みの薄くなった下関を目標から外し、
相対的に現実的な目標として舞鶴を目標に再設定しました。
日々の走行距離を抑えたいところですが、
都市間の距離はそれほど都合よくなく、宿泊/休憩先を確保するために、頑張らなければならないところも出てきます。
スタートから10日目には70km(金沢)、11日目には80km(福井)、12日目には60km(敦賀)、13日目には60km(小浜)と歩を進めました。

途中、足の痛みを全く感じず、
これなら下関は可能なのではないかと感じることもあれば、痛み止めがなければ殆ど動けなくなり、ここで止めるかと覚悟します。
現在の目標である舞鶴から再度、下関に目標を設定しなおすべきかの葛藤の日々が続きました。

老後生活資金の準備でも同様の危機が生ずることはあります。


ゴール達成に向けて、各種の取組み・調整をすることが原則ですが、
どうしても難しいときにはゴール自体を変えることも選択肢のひとつです。
例えば、70歳までに2,000万円を準備する予定なのに、69歳時点で1,500万円しか準備できていないような場合、1年で500万円の運用益をあげられるだけの選択肢はなかなかありません。

例えあったとしても、非常にハイリスク/ハイリターンの商品となるため、
運用がふるわなかった場合には大きく資産が減少してしまうこともあり、
お薦めすることはできません。
ゴール間近となれば、確実性を高める(リスクを下げていく)ことこそ求められ、
いちかばちかで、リスクを上げていくことは避けるべきでしょう。
他に余裕資金があるのであれば、
目標金額を1,600万円に引き下げるとか、
目標の期間を70歳ではなく75歳まで延長するとか、
合わせ技で、目標金額の半分1,000万円分だけ80歳まで延長して運用するとか、
目標自体を再設定するということになりそうです。

今回のレースのように、老後生活資金の準備は途中でのリタイアはできません。

その意味でも、定期的に不具合がないかを確認し、目標達成に向けての方策を施し、どうしても達成が難しそうであれば許容可能な目標への見直しを考えるのが良いのではないでしょうか。

(スタートから約967km、京都府舞鶴市(西舞鶴駅):R8ステージ終点)

長い葛藤のすえ、西舞鶴駅に着きました。
皮肉なことに最終日は脚の痛みも殆どなく、痛み止めのお世話にもなりませんでした。
しかし、脚の踏ん張りがきかないため、歩道のない国道で危ない思いを何度も繰り返し、この先を進むことを断念しました。

西舞鶴駅に着く直前、大きな地震があり、合わせて突然のにわか雨がありました。
あれは中途でリタイアすることへの戒めだったのでしょうか。

なお、今回の記事は筆者個人の見解であり、当社の公式な見解を示すものではありません。

【筆者紹介】
結城宗治:日本生命保険相互会社入社後、国内債券投資、財務企画を経験後、投資信託販売事業の立上げを担当。ニッセイアセットマネジメントでは投資信託企画の担当を経て、ファンドラップサービスGoalNaviを立ち上げ。DX推進担当。

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