ネーミングライツとは|最近は道路や歩道橋にも!?事例や金額の相場を解説
テレビのスポーツニュースを見るたびに企業名を冠したスタジアムなどの名前を聞くことが多くなりました。命名する権利を意味する“ネーミングライツ”を取得すると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。本稿では、ネーミングライツをする理由や具体例を挙げながらネーミングライツを取得する費用の相場についても紹介します。
ネーミングライツとは?
ネーミングライツとは、公共施設に名前を付ける命名権と付帯する諸権利のことです。プロ野球やサッカーの試合を行うスタジアムに企業の社名が付されていることは、よく知られています。ネーミングライツは、1973年に米国のアメリカンフットボールチームであるバッファロービルズのスタジアムの名称をリッチプロダクツコーポレーション(リッチフーズ)が買い取ったのが発祥といわれています。
一方、日本で競技場にネーミングライツが導入されたのは、2002年に食品会社大手の味の素が東京スタジアムのネーミングライツを獲得して命名した「味の素スタジアム」が最初です。
ネーミングライツのメリット・デメリット
ネーミングライツを使うことによって社名が浸透することは事実ですが、必ずしもメリットだけではないようです。売り手側と買い手側には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
売り手側のメリット・デメリット
施設に命名権を与える売り手側のメリットは、売却して得た資金を施設の維持・管理に使えることです。施設は、規模が大きいほど維持コストも高額になるため、ネーミングライツで売却益を得ることで維持コストの一部を賄うことができます。
一方、売り手側のデメリットは、名称を変更した際に一定の混乱が生じることです。例えばネーミングライツにより、地域の名前がなくなることにより、スタジアムの名前を聞いただけではどの地域にあるのかわからなくなりました。また、そのチームのファンにとっては、地域色がなくなったことに不満を感じる人がでるかもしれません。
買い手側のメリット・デメリット
買い手側のメリットは、社名の浸透を狙った宣伝効果です。スタジアムの場合、スポーツニュースで試合結果が報じられるたびにスタジアム名をアナウンスしてもらえるため、絶大な宣伝効果があります。
一方、買い手側のデメリットとしては、万一社名を冠した企業に不祥事が起こった場合に施設のイメージが悪くなることです。場合によっては、ネーミングライツの契約を打ち切られる可能性があります。
ネーミングライツの金額の相場と事例
ネーミングライツを取得するには、どのくらいの金額が必要になるのでしょうか。有名企業が取得している例が多いため、高額なイメージがあるかもしれませんが、相場の具体例を見てみましょう。
ネーミングライツの金額の相場
ネーミングライツの相場は、施設の規模によって大きく異なります。福岡ドームや東京スタジアムなどのスタジアム型施設は、年間数億円単位と言われています。例えば、Yahoo!JAPANが2005年に福岡ドームのネーミングライツを取得したときの金額は、5年契約で25億円です。スタジアムの収容人数が多いため、広告効果からいえば妥当な金額かもしれません。
スポーツ施設でも地方自治体が管理するスポーツセンター型の施設であれば数百万円といわれています。一方、コンサートホールなどの文化施設は規模によって数百万円~数千万円が相場だといわれています。また駅や道路、歩道橋など交通系の施設は、数十万円~3,000万円程度と比較的リーズナブルな価格設定となっている場合が多いです。
<地方自治体のネーミングライツ例>
ネーミングライツの事例
ネーミングライツの事例としては、以下の3つが挙げられます。
・スポーツ施設の事例
スポーツでは、野球場やサッカーの競技場が人気スポーツということもあってかネーミングライツを販売している例が多い傾向です。例えば以下のようなものがあります。
・プロ野球:西武ドーム「ベルーナドーム」
・プロ野球:広島市民球場「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」
・プロサッカー:茨城県立カシマサッカースタジアム「住友金属ゲート」(第1ゲート)、「常陽銀行ゲート」(第2ゲート) など ※2024年10月時点ではこちらの名称は使われていない
・文化施設の事例
文化施設のネーミングライツは、地方自治体にとって施設維持費確保に有効です。自治体の施設は、地域名が入っていることが理想なため、地域名と企業名・商品名を組み合わせたネーミングが多く見られます。
例えば、八王子市民会館は「J:COMホール八王子」、渋谷公会堂は「LINE CUBE SHIBUYA」といった具合です。一方、豊島区立芸術文化劇場が「東京建物Brillia HALL」に変わったように地域名がまったく残らない例もあります。
・5大ドームの具体例
ドーム球場は、野球の試合だけでなく人気アーティストのライブや大型の展示会などで使用されることがあります。「ドーム公演を行うのが目標」というアーティストも多い傾向です。おそらく一番耳にすることが多い具体例でしょう。日本の5大ドーム球場は、以下のとおりです。
スタジアムにとってネーミングライツの販売は、年間数億円の収入源になります。しかし東京ドームの場合は、ネーミングライツを販売していません。これは「TOKYODOME CITY(東京ドームシティ)」というエリア一体に名称が付けられているため、販売していないことが予測されます。
ネーミングライツのおもしろい事例
ネーミングライツは、競技場だけでなくさまざまな施設や場所で導入されています。なかには、以下のような意外な場所にも名前が付いている場合があります。
道路
「〇〇ストリート」と通称で呼ばれる道路は、今までもありました。しかしネーミングライツとして正式に販売している道路もあります。例えば、2017年に埼玉県戸田市の市道5003号線のネーミングライツを売り出したところ、イオンリテール株式会社が年額61万円で契約し、「イオンわくわく通り」と命名されました。
これは、地域貢献と同時にイオングループが行っている割引セール「お客さまわくわくデー」を想起させる効果が見込めます。
歩道橋
歩道橋のネーミングライツを販売している地方自治体もあります。例えば、横浜市では「道路施設におけるネーミングライツ事業」を積極的に行っており、横浜ポートサイド人道橋が「ベイクォーターウォーク」、戸塚駅西口歩道橋が「トツカーナ東急プラザデッキ」などと命名されています。
駅
鉄道の駅も地方を中心にネーミングライツを販売しています。三陸鉄道北リアス線「宮古駅」の「アイフルホーム宮古駅」(2024年10月時点は宮古駅)、天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線「桜木駅」の副駅名が「ヤマハピアノのふるさと駅」(期間は2022年11月7日~2025年3月31日)などと命名された例があります。
参考:ヤマハ掛川ピアノ工場に近接する 天竜浜名湖鉄道 桜木駅の副駅名を『ヤマハピアノのふるさと』と命名
<天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線の契約中のネーミングライツ一覧(2024年1月15日現在)>
いろいろな駅名(副駅名)がネーミングライツされているが、混乱を避けるためか、東京など大都市圏の鉄道駅のネーミングライツが販売された例はわずかしかありません。例えば、JR神田駅が以下のように変更されている。
JR神田駅 →「JR神田駅(アース製薬本社前)」
北口→「北口(モンダミン口)」
南口→「南口(アースジェット口)」、
東口→「東口(サラテクト口)」
西口→「西口(バスロマン口)」
期間:2023年10月2日(月)~2028年9月30日(土)5年間の予定
参照:
ネーミングライツは費用対効果を考えることが大事
ネーミングライツは、新しい広告の形として今後も拡大していくことが予想されます。広告を打つときに大事なのは、費用対効果を考えて検討することです。例えば交通系の施設の場合、近隣に自社店舗があれば店舗名を浸透させるための費用としてかける価値があるでしょう。
また継続性の観点で新聞広告は、翌日になれば前日の新聞を読むことはあまりないため、一過性の要素が強いといえます。その点、施設であれば閉鎖されない限り年間を通して自社の社名を冠しておけるため、徐々に効果を発揮することが期待できます。
ネーミングライツは、小規模の施設や地方自治体の施設であれば数十万円から命名権の取得が可能です。会社経営者であれば、費用対効果が見込める施設に社名を冠する夢を持つこともよいのではないでしょうか。