経済波及効果は数百億円⁉ 大河ドラマ「光る君へ」 にまつわるお金の話
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代中期を舞台に「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を描いた物語で、主人公を吉高由里子さんが演じます。例年、大河ドラマや朝ドラ(連続テレビ小説)の舞台となるエリアは注目を集め、観光客の増加やご当地ものの売上増が見込まれることから、地元に大きな経済波及効果をもたらすといわれています。また、ドラマのヒットにより、連想される会社の株が買われて株価が上がるケースもあるようです。そこで、今回は今年の大河ドラマにまつわるお金の話を集めてみました。
ベストセラー「源氏物語」を生み出した女性の一代記
大河ドラマ「光る君へ」の舞台は平安時代中期で、世界最古の女性文学ともいわれる「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯をひもときます。主人公の紫式部(まひろ)を吉高由里子さん、彼女と人生を交えた後の権力者・藤原道長を柄本佑さん、ライバルともいえる清少納言をファーストサマーウイカさんが演じます。きらびやかな平安貴族の世界と、時代に翻弄されながらも懸命に生き、1000年を超えて愛される物語を紡ぎ続けた女性の一生が、いきいきと描かれていきます。
本作は原作のないオリジナル脚本で、担当するのは2006年の「功名が辻」以来、2度目の大河ドラマ執筆となる大石静さん。女性が主人公の大河ドラマは「おんな城主 直虎」(2017年)以来7年ぶりで、通算15作目となります。制作統括とチーフ演出をともに女性が務め、戦争がつきものともいえる大河ドラマとしては珍しく、合戦シーンのない異色の作品となりそうです。
シングルマザーとして宮中で働きながら執筆
ここでざっとあらすじを紹介しておきましょう。紫式部(まひろ)は、平安時代(10世紀後半)に京都で生まれます。父の藤原為時(岸谷五朗さん)は受領階級の下級貴族で決して裕福ではなく、幼い頃に母を失いますが、漢学や和歌に秀でた父のもと、並外れた文学の才能を発揮し、感受性豊かな女性に成長します。
少女時代に後に最高権力者となる藤原道長と知り合い、惹かれ合いますが、身分差のために結ばれることなく、やがてはるか年上の藤原宣孝(佐々木蔵之介さん)と結婚します。娘を授かりますが、わずか1年で夫と死別し、シングルマザーとして一人娘を育てながら、後に「源氏物語」として知られる長編小説を書き始めます。
その間にも道長は熾烈な権力争いを勝ち抜き、着々と権力の中枢へと歩を進めていきます。そして、まひろは道長の求めにより、長女の中宮・彰子に仕える宮中の女房になります。道長のバックアップもあり、やがて「源氏物語」は天皇家や貴族の間で大ベストセラーとなります。道長との縁は愛憎入り交じりながら終生続き、生涯にわたる“ソウルメイト”ともいえる存在となります。
二千円札に描かれている紫式部と源氏物語絵巻
タイトルの「光る君」とは「源氏物語」の主人公・光源氏を指し、このドラマには登場しません。皇子として生まれながら臣下となる美しい男性で、そのモデルの一人はまひろにとって特別な存在だった道長とも考えられています。
「源氏物語」は、主人公の光源氏を通して、恋愛や栄光と没落、権力闘争など、平安時代の貴族社会を描いています。世界最古の恋愛小説ともいわれ、数多くの女性と関係を持ちながら栄華を極めていく姿や、最愛の妻を亡くして栄光に翳りが見えていく過程、また光源氏の没後の物語も描かれています。
実は、この源氏物語と作者である紫式部が、日本の紙幣(日本銀行券)に描かれていることをご存じでしょうか? あまり見かける機会がないので「さては今年7月に登場する新紙幣?」と思った人も多いかもしれませんが、そうではありません。
正解は「二千円札」です。これは2000年に発行が開始されたD号券で、現在も法定通貨として有効です。ただ、2004年以降は増刷されておらず、流通量はごくわずかです。どうりであまり見かけないわけですね。
このお札には表側に沖縄県の首里城守礼門、裏側の左側に「源氏物語絵巻」第38帖「鈴虫」の絵図(光源氏、冷泉院)と詞書、右下に作者の紫式部の図柄が印刷されています。今回、このドラマの影響で二千円札が再び注目されるかもしれません。
大河ドラマゆかりの地の経済波及効果は絶大
さて、例年、大河ドラマの次回作が発表されると、舞台となるエリアではその経済効果を期待する声が高まります。
たとえば、一昨年の小栗旬さん主演「鎌倉殿の13人」では、鎌倉を中心とする神奈川県に約307億円の経済波及効果があるという試算が出されました(鎌倉市観光協会、横浜銀行)。また、昨年の「どうする家康」では、愛知県に約393億円、そのうち名古屋市に約140億円の経済波及効果があるという試算が出されています(公益財団法人名古屋観光コンベンションビューロー、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。実際、2010年の「龍馬伝」では、予想を100億円超上回る535億円もの経済波及効果が、高知県にもたらされたといわれています(日本銀行高知支店)。
これらは主に、ドラマをきっかけに現地へ観光に訪れる人の数が増え、それに伴って宿泊業や飲食業、娯楽サービス、鉄道輸送などの業種に売上増などの好影響が見込まれることから、それらを積算して推計したものです。
舞台となる宇治市、越前市、大津市の3市が連携
今年の「光る君へ」の主な舞台は紫式部が人生の大半を過ごした京都ですが、ほかに父の赴任先で幼い頃に暮らした福井、「源氏物語」を起筆したとされる滋賀がゆかりの地として挙げられます。
三府県にわたり、経済波及効果の試算はまだ見当たりませんが、放映開始の半年前に「紫式部ゆかりのまち」として共通の観光資源を持つ京都府宇治市、福井県越前市、滋賀県大津市の3市が、観光振興や地域活性化の相乗効果を図ることを目的として、連携協定を締結しました。3市合同で観光ポータルサイト「かいまみる紫式部」を開設し、各エリアと紫式部とのつながりや関連スポットを紹介するほか、イベントやスタンプラリーなども展開しています。
とりわけ、大津市では「光る君へ」の放送を機に石山寺をはじめとするゆかりのスポットがある同市に観光客を誘引し、満足度を高める取り組みを促進するため、早くも2022年秋に、大津市大河ドラマ「光る君へ」活用推進協議会を設立しました。約1.7億円の予算をつけて、ゆかりの石山寺を中心に衣装や小道具を展示したり、市内事業者に補助金を出してサポートしたりして、盛り上げを図っています。
実は、大津市といえば2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公・明智光秀ゆかりの地としても知られ、多くの観光客を見込んでいたのですが、あいにくコロナ禍の自粛期と重なってしまい、思ったほどの経済効果が生まれなかったという苦い経験がありました。そのこともあって、今回の大河ドラマにかける期待や意気込みがより大きいのかもしれません。
ドラマのヒットが株価を押し上げる追い風に!
ところで、過去には人気ドラマに関連する企業や業種の株が買われ、株価上昇につながったケースもあります。
たとえば、2003年のTBS日曜劇場枠放送された木村拓哉さん主演のドラマ「GOOD LUCK!!」では、舞台となった航空会社の株が買われて株価が上昇し、航空業界全体の就職希望者も急増したといいます。また、2016年に社会現象にもなった新垣結衣さん・星野源さん共演の「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)では、ウエディングや家事代行に関わる業界が注目され、株価上昇の追い風となったそうです。
大河ドラマでも例年、舞台となるエリア発祥の企業や鉄道会社、関連する書籍やゲームを扱う出版社、ゲーム会社などが関連銘柄として注目されたりします。このように普段何気なく見ているドラマにも、資産運用に役立つ要素が潜んでいることがあります。今回の「光る君へ」も、そうした連想を働かせながらご覧になってみてはいかがでしょうか。