インドの人口が中国を抜いて世界一位に!
2023年4月、国連はインドの人口が14億2,860万人を超え、中国の14億2,570万人を上回ったとの推計を発表しました。世界の総人口が約80億4,500万人なので、世界人口の約17.8%、つまり世界の5~6人に1人がインド人ということになります。インドの人口は今後も増え続け、2050年までに17億人近くになるとも予測されています。今回は、人口増加の理由や経済成長の背景を含め、インドがどのような国なのかを紹介していきます。
世界7位の広大な国土と、世界1位の総人口
まずは、基礎的なデータから紹介しましょう。インドは南アジア、インド洋に面した国。北方では中国、ネパール、ブータン、西方はパキスタン、東方はバングラディシュ、ミャンマーと国境を接しています。第二次世界大戦後の1947年、英国の統治から独立。日本とは1952年に国交を樹立し、2022年に70周年を迎えました。正式名称はインド共和国(Republic of India)で、国土面積は328万7,263平方キロメートル。世界で7番目、日本の約8.8倍という広い国土を持っています。
南北に3,200km(東西には3,000km)と長く、日本と同様、北部と南部で大きな気候の差があるのもインドの特徴です。北部では東京並みに冷え込む一方、南部では40度を超える猛暑となる地域もあります。首都は北部中央に位置するニューデリーで、公用語はヒンディー語。英語も準公用語として使われています。
ただし、州レベルで使われる公用語としてヒンディー語やベンガル語、テルグ語など21の言語が憲法で公用語として定められるなど、多種多様な言語がある国としても知られています。また、憲法で定められた公用語のほか数百の言語が使われていて、方言を含めるとその数は2,000程度まで増えるとのこと。ただ、正確な言語数は把握できていないというのが現状のようです。
人口は冒頭で紹介したように、2023年には14億2,860万人超と世界トップに浮上しました。年齢別の人数を横棒のグラフで表す「人口ピラミッド」を見ると、2010年時点では若年層が多く高齢者層が少ない完全な三角形型でした。2022年時点では、15~19歳と20~24歳が最も多く、三角形型ではありますが、ややピラミッドの下部が膨らんだ状態。2050年は、彼らが40~50代となり、釣り鐘型となることが予測されています。
人口増加の一因には、IT産業の拡大も
インドの主要産業は、農業(第一次産業)と工業(第二次産業)、ITを中心としたサービス業(第3次産業)です。GDP(国内総生産)に占めるそれぞれの産業の割合は、第1次産業が20%、第2次産業は26.9%、第3次産業が53.1%と、第3次産業が過半を占めています(2021年3月時点)。第3次産業の増加は、「IT大国」として1990年代からITサービスを欧米への輸出を拡大させてきたためです。
原油価格にも敏感なインドの通貨「ルピー」
インドの通貨はルピーです。直近では、2020年の1インド・ルピー=1.4円前後から、2023年12月時点で1.75円近辺と円安(ルピー高)が進行しました。ただし、これはほかの通貨と同様、「ルピーが上昇した」というより「日本円が下がった」影響が大きく、対米ドルでは2008年頃から値下がりが続いています。
インドでは、人口や経済の増加に伴って、エネルギー消費も増えていて、世界有数のエネルギー消費大国としても知られています。インドのエネルギー自給率は65%程度(2016年時点)と低くはありません。しかし、IEA(国際エネルギー機関)によると、インドのエネルギー消費の規模は2030年までに中国、米国に次ぐ世界3位に浮上する見通しとのこと。現在、サウジアラビアやロシアなどから大量の原油を輸入しているため、インドの経済やルピーも原油価格の動向に影響を受ける傾向があります。
経済の成長を反映し、右肩上がりが続くインド株指数
インド株式市場の代表的な株価指数として挙げられるのが、SENSEX(センセックス)指数。近年では同指数に連動する投資信託やETF(上場投資信託)が増えており、世界でも注目される株価指数の1つです。この10年間、同指数は新型コロナウイルス感染拡大のショック安(コロナショック)による一時的な相場の急落を除くと、ほぼ一貫して右肩上がりで上昇しています。特に、2020年3月のコロナショック以降の3年間で、約3万ポイントから6万5,000ポイントを超えるなど2倍以上に上昇しました。
カレーとクリケットを愛するインドの国民
ここで、インドの食文化を紹介しましょう。「インドといえば?」と質問された場合、「カレー」と答える人が多いのではないでしょうか。前述したように、インドは東西南北に広く、地域によって異なる食文化があります。食事の内容は厳格な宗教観に基づいており、ベジタリアンと非ベジタリアンが明確に線引きされているのも特徴。国民の6割程度がベジタリアンと言われています。
「インド料理」の共通点を挙げると、多様なスパイスと油、バター、牛乳やヨーグルトなどの乳製品がふんだんに使われること。「これらが用いられたもの=カレー」と認識するなら、日本人からすると「1日三食カレー」と言えるかもしれません。
もう1つ余談のとして、インドの国民的スポーツを取り上げます。インドの国民的スポーツとして人気を集めるのは、日本では馴染みの薄い「クリケット」。インドのナショナルチームは、ワールドカップの優勝経験を持つ強豪国です。ボウラー(野球でいうピッチャー)が投げる球をバッターが打ち、得点を競うという点では野球に似ています。3つの試合形式があり、そのうちの「テストクリケット」の1試合にかかる時間はティータイム休憩を含めて1日7時間、全部で4~5日かかるという驚きの長さ(国際大会では1試合8時間程度の「ワンデイクリケット」方式が採用)。2年に1度、ワールドカップが開催されているほか、2028年に開催予定のロサンゼルス夏季オリンピックに、公式競技としてクリケットの採用が提案されています。
1人当たりGDPの成長スピードは緩やか
ここからは、インドの経済について述べていきましょう。2022年の名目GDPは3兆3,851億ドル(2023年12月時のドル/円換算で約491兆円)。GDPベースでは、2022年に5位だった旧宗主国の英国を抜き、世界5位の規模となっています。IMF(国際通貨基金)は2026年にもインドのGDPは日本を抜き、第4位に浮上すると予測。2050年までに米国を抜いて2位に浮上するとの予測も出ています。
ここ数年の経済成長率を見ると、他国同様、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2020年度こそマイナス5.8%と落ち込みましたが、2021年度はプラス9.1%とV字回復。2022年度もプラス7.2%と高成長を維持しました。2023年度は、第1四半期(4~6月)が年率換算でプラス7.8%、第2四半期(7~9月)は同プラス7.6%。2023年度の1年間でも6%を超える見通しになっています。
もっとも、「1人当たりGDP」ベースでは、少し見方が変わってきます。インドの2022年の1人当たりGDPは2,389ドル。GDPこそ日本や中国などと肩を並べる水準に拡大したものの、国民1人当たりのGDPでは、日本の3万3,815ドル、中国の1万2,720ドルには遠く及びません。中国が2000年代以降、諸外国企業の生産拠点、いわゆる「世界の工場」として急発展してきたことと比べると、比較的緩やかな成長スピードと見ることもできます。
「メイク・イン・インディア」政策で輸出の拡大にも期待
これは、中国やタイなどの新興国が内需の成長をベースとして、外需(輸出)を大きく拡大させることで成長してきたのに対し、近年のインドの成長は人口ボーナス(15歳~64歳の生産年齢人口が、その他の人口の2倍以上あり、経済成長が促される期間)によって下支えされたものと読み取ることができます。経済の拡大や中間所得者層の増加によって家電やパソコンなどの需要が拡大するなか、それら製品の多くが輸入に依存。特に、中国からの輸入が増えています。これによって、インドの貿易収支は長らく赤字が続いているのが現状です。
もっとも、これは「インドの成長が期待できない」ということではありません。インドでは、中間所得層(世帯所得が5,000~3万4,999ドルの層)が2000年の28.8%から、2020年には50.2%まで急増。国連の推計では、インド人口のピークは2064年、約17億人となっています。インドが1960年代より人口抑制策を取ってきたこともあり、人口増加のペースは以前より鈍化していますが、今後数十年にわたって「人口ボーナス」を得られる状況です。中間所得層が増えれば、国民全体の購買力は大きく上がるため、国内の消費が拡大し、経済成長率を押し上げるでしょう。
インドが高成長を示現するきっかけとなったのは、1991年に行われた経済改革です。インド政府は1980年代、徐々に経済の自由化を進めることで経済成長の下地を作り、1991年には経済安定化策と自由化策を合わせた新しい経済政策を実施しました。
2014年にインドの首相に就任したナレンドラ・モディ首相は、「メイク・イン・インディア」というスローガンを掲げ、外資を積極的に呼び込む政策を打ち出しました。特に、積年の課題である製造業の拡大を目的として、インド国内で製造する外国企業に対して法人税引き下げなどの優遇策を施行。GDPに占める製造業の比率を、就任当初の15%から25%まで引き上げようとしています。前述したように、2021年3月末時点で、同比率が20%まで上がっているところを見ると、モディ首相の施策の効果が着実に表れていると言っていいでしょう。
自動車市場が急拡大。圧倒的シェアは日本の「スズキ」
モディ首相の製造業拡大政策のもと、インドでは自動車市場が大きく伸びています。インドの自動車工業会によると、2022年度の乗用車販売台数(国内)は、前年度比で26.7%増の389万114台と過去最高を記録。また、新車販売台数ベースでは日本を追い抜き、中国、米国に次ぐ世界3位に躍り出ました。中間所得層の増加を背景に、今後も増加の傾向が続くのではないでしょうか。
ちなみに、その乗用車市場の中で圧倒的なシェアを占めるのが日本のスズキ(正確にはスズキ子会社のマルチ・スズキ・インディア)。2022年度におけるスズキのインド市場のシェアは41.3%(2位の韓国・現代自動車は14.9%)と、他社を圧倒しています。そのほか、総合商社や食品会社など、数多くの日本企業がインドでビジネスを展開しています。今後はインドの成長によって、一段とその数は増えることになりそうです。