英国ISAミリオネアに学ぶニーサ(NISA)活用のヒント
「ニーサってあるじゃないですか。私も始めようと思って、最近、ネット証券に口座を開いたんですよ。」と、いつも髪の毛を切ってくれる20代の理容師さん。
最近の若者はしっかりしているなと感心すると同時に、ニーサが若い人たちの間にも浸透していることを好ましく思いました。
英国ISA(アイサ)ミリオネアとは
ニーサ(NISA)とは、「少額投資非課税制度」のことで、個人の資産運用を支援する制度です。
本来であれば、株式や投資信託などから得られる運用収益(*1)には、20.315%の税金がかかります。それがニーサ口座で購入した金融商品からの運用収益は非課税となります。
(*1) 配当や分配金、売却益など
さらに、来年(2024年1月)からは非課税で投資できる期間が無期限となり、投資枠も大幅に拡大することが決まっています (*2)。
この改正によって、非課税のメリットをより多く享受しながら資産形成に取り組むことができるようになります。
(*2) 新ニーサ非課税枠の上限額は年間360万円、非課税保有限度額は1,800万円
新しいNISAのポイント(金融庁)
実は、日本のニーサのお手本となった制度が英国にあります。Individual Savings Account(個人貯蓄口座)、略してISA(アイサ)と呼ばれており、1999年に導入され、今では成人人口の2人に1人が利用するほど普及しています。
そんな英国では、「ISAミリオネア」と呼ばれる人たちが現れ、注目を集めています。
「ISAミリオネア」とは、ISAの資産額が100万ポンド(1ポンド180円で計算で1.8億円)を超える人たちのことで、ISAを活用して資産形成を成し遂げた成功者として一目置かれています。
今回は、ISAミリオネアから学ぶニーサ活用のヒントについてみてみましょう。
ISAミリオネアの3つの特徴
①リスク資産に積極投資
英国のISAは、大きく「預金型ISA」と「株式型ISA」の二種類に分かれます。
預金型ISA の中身は預金やMMFなどの安全資産で、株式型ISAはリスクの分だけ高いリターンが想定される株式や投資信託などのリスク資産です。
ISAミリオネアの特徴は、預金型ISAではなく、株式型ISAを使って積極的にリスク資産に投資して値上がりのチャンスをものにしているところにあります。
②非課税枠いっぱいまで拠出
英国ISAの年間拠出上限額は20,000ポンド(1ポンド180円換算で360万円)です。
ISAミリオネアのもうひとつの特徴は毎年上限額いっぱいまで拠出しているところであり、非課税枠を最大限活用することがミリオネア達成のポイントといえそうです。
③じっくり長期投資
ISAミリオネア の平均投資期間は20年を超える長期間に及びます。
相場の短期的な動向に左右されず、常に長期的な視野に立って、じっくり資産形成に取り組む姿勢が共通する特徴です。
ニーサ活用のヒント
来年1月から改正される日本の新しいニーサ制度では、拠出金額の非課税保有限度額が1,800万円までと決まっています。
一方、英国のISAには年間の上限額(20,000ポンド)はあるものの非課税保有限度額はありません。生涯にわたって上限なく非課税で積み立てを続けられることがISAミリオネア達成を支える大きな要因ともいえるでしょう。
私たちにとって非課税保有限度額の上限は仕方ないものの、英国のISAミリオネアに共通する投資の特徴を私たちも上手に取り入れることで、より実りのある投資成果を実現することができそうです。
ヒント❶:預貯金から株式・投資信託へ舵を転換
100万円を定期預金(金利0.2%/年)に預け入れたとしても、10年後には約102万円、20年後には約104万円にしかなりません。(図1.参照)
勿論、今後金利は上昇するかもしれませんが、低金利が続けば、長く預貯金に預け入れたとしても老後の備えは十分なものにならないことが分かります。
一方、同額を株式や投資信託などのリスク資産に振り向けると、年5%の収益率のとき資産額が10年後に約163万円、20年後には約265万円に達することが想定されます。
リスク資産の収益率の想定を6%に上げると、それぞれ約179万円、約321万円に、7%では約197万円、約387万円に増加します。
【図1.リスク資産への投資で想定される運用収益】
(出典)筆者作成
ISAミリオネアが実践するように積極的にリスク資産を活用することが運用目標達成のための第一歩といえます。
なお、日本のニーサは英国の株式型ISAに近く、預貯金や公社債を投資対象にできず、株式、投資信託、ETF(上場投資信託)などのリスク資産に投資するものです。
ヒント❷:利用しない手はない非課税のメリット
前述のとおり、リスク資産の運用収益には本来20.315%の税金が掛かります。
仮に、初期投資100万円、毎月3万円の積立てを前提に、リスク資産(年6%の収益率)に投資し続けたとすると、20年後の資産額は約1,690万円に達することが想定されます。
20年後に課税された場合、運用収益約870万円に対して税金は約180万円要し、実質の資産額は約1,510万円に目減りしてしまいます。30年後だと税金は約470万円にもなります。(図2.参照)
以上のように、運用収益が大きくなればなるほど税金の有無は馬鹿になりません。
長期に資産形成を行うとき、ISAミリオネアのように非課税のメリットを最大限に活かすことができれば、より有利な成果に結びつくのではないでしょうか。
【図2.運用収益が非課税となるニーサ口座のメリット】
(出典)筆者作成
ヒント❸:早ければ早いほど得
運用で得た収益を再び投資するとその収益がさらに収益を生み、資産がどんどん増えていきます。これを複利効果といいます。
長期になればなるほど、その効果が増幅していくことから資産形成は早ければ早いほど得といえます。
例えば、10年前に100万円を米国株式に投資し、その後も毎月3万円ずつ積立てていたとしたら、現在、一体いくらになっているでしょうか。また、20年前、30年前から始めていたらどうでしょうか。
結果は、図3が示すように、それぞれ約1,240万円、約3,960万円、約9,440万円に達していたことになります。
30年前に開始した場合の資産額は1億円に迫っており、目を見張るものがあります。このとき投資した金額の総計は1,180万円と、ニーサの非課税保有限度額(1,800万円)を下回っており、制度上できない投資ではありません。
もちろん過去の投資成果が保証されるわけではなく、あくまで一事例でしかありませんが、興味深い結果だと言えるでしょう。
【図3.米国株式で積立投資を継続していた場合の投資成果】
(注)2023年5月末現在の評価
① 2013年6月より投資を開始(初期投資100万円、毎月初3万円の積立)
② 2003年6月より投資を開始(初期投資100万円、毎月初3万円の積立)
③ 1993年6月より投資を開始(初期投資100万円、毎月初3万円の積立)
(出典)イボットソン社 Morningstar Directのデータより筆者作成
もうひとつの重要な点はこのシミュレーションが架空の収益率をもとに計算しているのではなく、過去の実際の市場の収益率をもとに計算しているということです。つまり特別な投資技術があったから大きく増やせたのではなく、株式市場の平均的な値動きに連動するインデックスファンドに積立投資するだけで、図3のような投資成果を上げることができたということを意味します。
投資のことはよくわからないし、どの商品を選んだら良いのかもわからないと資産形成を躊躇されている方にとって、奇を衒わず市場の収益率への連動を目指すインデックスファンドへの積立投資はお薦めです。
まとめ
今回は、英国ISAミリオネアから得られるNISA活用のヒントについてみてきました。
投資期間が長期になればなるほど、リーマンショックやコロナショックなど世界株式の暴落に巻き込まれる可能性が高くなるのではないか、と心配する声もあることでしょう。しかし、積立投資を継続することで、それらの危機を乗り越えてもなお、図3でみたような投資成果を上げることができたことが確認できました。むしろ相場の急落時は絶好の好機とも捉えられ、ISAミリオネアの中には積極的に買い増しする強者もいるほどです。
非課税枠いっぱいまで拠出することは、特に若い世代にとっては難しいことかもしれません。まずは、老後資金の目安とされる2,000万円を目標に、少額でも良いので、できるだけ早く投資を始め、徐々に積立額を増やしていってはいかがでしょうか。余裕が生じてくれば、ボーナスの一部も積立額の増額にあてるなど、できるだけ早い時期に非課税保有限度額を使い切り、その後も(追加投資はできなくなるものの)リスク資産を保有し続ければ、「ニーサ・ミリオネア」の達成も夢ではなくなるかもしれません。
なお、今回の記事は筆者個人の見解であり、当社の公式な見解を示すものではありません。
【筆者紹介】
相川雅宏:日系投資信託会社入社後、国内外でパッシブファンドの運用に従事。ニッセイアセットマネジメントでは商品企画開発業務を担当。
・当資料で、筆者の紹介のある記事においては、掲載されている感想や評価はあくまでも筆者自身のものであり、ニッセイアセットマネジメントのものではありませんが、ニッセイアセットマネジメントと筆者との間でこれらの表示に係る情報等のやり取りを直接的又は間接的に行っているため、実質的にはニッセイアセットマネジメントの広告(「不当景品類及び不当表示防止法」におけるニッセイアセットマネジメントの表示)等に該当する場合がございますので、ご留意願います。