インフレ から「悪い円安」に!? 「良い円安」は戻ってくるのか
2022年10月20日の東京市場で、ドル円レートは1ドル150円台に乗せ、実に32年ぶりの安値水準を更新しました。振り返れば、2022年1月3日に1ドル=115円台でスタートしたわけですから、今年に入って急速に円安が進んでいることがわかります。
今回は、最近よく耳にする「悪い円安」論について、これまでの日本経済の歩みや日銀の金融政策、私たちの生活に与える影響などを抑えながら考えてみたいと思います。
なぜ?「悪い円安」が新語・流行語大賞にノミネート
「大谷ルール」「オミクロン株」「メタバース」 などと並び、「悪い円安」が2022年の新語・流行語大賞にノミネートされました。
最近の物価の上昇要因のひとつとして円安に関する報道も連日のようにされており、気になっている方も多いかもしれませんね。80年代生まれの私をはじめ、多くの日本人が「円安」に対して自然と良いイメージを抱いている中、「悪い円安」は耳慣れず、据わりが悪い言葉だと感じてしまいます。
「悪い円安」がノミネートされた背景には、戦後、資源に恵まれない日本が輸出を中心とした貿易立国を目指し、経済発展を遂げてきたという歴史があるからではないでしょうか。「輸出中心の経済成長を図っていた日本にとって、円高は輸出価格の相対的な上昇による競争力低下につながるととらえられていたことから円安は日本にメリットがある」=「良い円安」が日本人の共通認識になったと思われます。
「悪い円安」とは?インフレとの関係もわかりやすく解説
「悪い円安」という言葉が生まれた背景には、やはり高止まりするインフレがあると思われます。
みなさんもご存知かと思いますが、欧米諸国はインフレを抑制するために、金融引締め姿勢を強め、利上げを継続しています。一方、日本では金融緩和政策(金利引き下げ)が続いています。この金利差が意識されて「円を売り、ドルを買う」という動きが加速したことから、円は一時1ドル=150円を超える水準にまで下落しました。
1ドル=150円を超える水準にまで円安が進めば、石油、天然ガスなどエネルギーや原材料の輸入価格は上昇し、企業の収益に影響を及ぼすだけでなく、電気料金、食料品や日用品などの相次ぐ値上げによって、私たちの生活がじわじわと圧迫されるというデメリットに注目したのが「悪い円安」の正体であると言われています。
かつての「悪い円高」はどこに?国内企業への影響は?
「悪い円安」という言葉が生まれる前には、「円高」が悪役であり、「悪い円高」が日本人の共通認識だったと思います。
2008年のリーマンショックやその後のギリシャ危機を通じて、安全資産とされる円へ資金の流入が続き、忘れもしない2011年10月には1ドル=75円まで円高が進み、過去最高値を更新しました。
円高傾向が続いたことから、国内企業は「悪い円高」への耐性を付けるために、さまざまな取り組みや投資を行いました。例えば、海外企業の買収や、各国に製造拠点を設ける現地生産の推進、部材の現地調達などがあげられます。その結果、国内企業は以前ほど円高からマイナスの影響を受けにくくなったとも言われています。
こうして、かつて善(良)であった円安が悪に、悪であった円高は、善といえない(善という論調もありますが)状況となっています。
また、当然ですが、円安が良いのか悪いのかは立場によって認識も変わります。例えば、海外旅行に向かう観光客や留学をする学生と、訪日外国人観光客向けに商品やサービスを提供する側でも異なります。コロナ禍で大打撃を受けたインバウンド需要の円安を追い風にした回復は、日本経済にとって好影響となるでしょう。
これからは「悪い円安」?「良い円安」?
最後に、今後「悪い円安」が定着するのかについて考えてみましょう。今回の円安進行は、①コロナ禍からの急回復による供給不足、②ウクライナ危機などを受けたエネルギー価格上昇をはじめとした欧米諸国での歴史的インフレ、という大きく2つの事象が背景にあります。
これらは非常に稀なものであるため、私は「悪い円安」が一般的な言葉として定着していくかは疑問が残ると感じています。数年も経てば「悪い円安」は忘れられ、また「良い円安」が戻ってくるのかもしれませんね。
まとめ
今回は、2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされた「悪い円安」について考えてみました。日本が輸出を強化することで経済発展を遂げてきたため良いイメージがあった「円安」ですが、エネルギーや原材料の輸入価格上昇、電気料金や食料品、日用品の相次ぐ値上げが起きていることから「悪い円安」という見方が生まれました。はたして「悪い円安」がいつまで続くのか、みなさんと一緒に注目していきたいと思います。
当資料は、情報提供を目的として作成しており、投資家に対する投資勧誘を目的とするものではありません。 当資料の内容は具体的な商品を勧誘するものではないので、手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、表示することができません。 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。 市場見通し等は、お客様の運用方針や投資判断等の参考となる情報の提供を目的としたものです。実際の投資等に係る最終的な決定は、お客様ご自身のご判断で行っていただきますようお願い申し上げます。 当資料に記載された運用商品、手法等は、リスクを含みます。運用実績は市場環境等により変動し、運用成果(損益)は全て投資家の皆様のものとなります。元本が保証された商品、手法ではありません。 当資料は、現時点で信頼できると考えられる情報を基に作成しておりますが、情報の正確性や完全性を保証するものではありません。 当資料に関わる一切の権利は、引用部分を除き弊社に属し、いかなる目的であれ当資料の一部または全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。