日本を抜いて世界3位の経済大国に浮上⁉ドイツってどんな国?
ドイツでは2024年、サッカーの欧州選手権(UEFA EURO2024)が開催されます。みなさんは、「ドイツ」と聞いて、真っ先に思い浮かぶことは何でしょうか? ビールやソーセージといった食に関するもの、あるいはメルセデス・ベンツやBMWなどの高級車でしょうか。スポーツ好きの人なら、サッカーという答えが返ってくるかもしれません。今回は、自動車製造業やサッカーで知られるドイツについて調べてみました。
ドイツってどんな国?
2024年6月14日からスタートする欧州選手権について、英国大手のブックメーカー「ウィリアムヒル」の優勝オッズでは、ドイツがフランス、イギリスに次ぐ3番手。近年のサッカードイツ代表は低迷が続いており、FIFA(国際サッカー連盟)の世界ランキングでは10位以下に甘んじています。
直近では、2022年に開かれたサッカーワールドカップのグループ予選や、2023年9月に行われた国際親善試合で、いずれも日本代表に敗退しました。しかし、このオッズを見ると、2024年の欧州選手権ではサッカーワールドカップで4度も優勝を果たした古豪・ドイツ代表の復権が期待されているようです。
さて、サッカーの話題はこのくらいにして、ここからはドイツという国を紹介していきましょう。
ドイツの正式名称は、「ドイツ連邦共和国(Federal Republic of Germany)」。国土面積は35万7,588平方キロメートルで、日本の国土面積の約95%と、ほぼ日本と同じ面積を持つ国です。人口は、2022年時点で8,436万人と、世界で19位。先進国の中では、米国(3億3,829万人)、日本(1億2,395万人)に次いで人口が多い国となっています。首都は旧東ドイツのベルリン(人口は376万人)、母国語はドイツ語です。
総人口に占める65歳以上の割合では、2018年時点で日本の28.1%が世界で最も高く、イタリアが23.3%、ポルトガル21.9%、ドイツは21.7%。総人口の5人に1人以上が高齢者であり、日本と同様、高齢化が社会問題になっています。
法定通貨は「ユーロ」。2002年1月1日、それまで使われていたドイツマルクが廃止され、ユーロ加盟国の共通通貨であるユーロの取り扱いがスタートし、現在に至ります。ユーロは導入当初、EU(欧州連合)加盟国のうち12カ国で流通が始まり、2023年1月にはクロアチアがユーロを導入しました。これで、ユーロ圏27カ国のうち20カ国がユーロを共通の通貨に用いていることになります。ユーロ経済圏において、ドイツのGDP(国内総生産)のシェアは約3割を占めているため、ドイツの経済動向に大きく影響を受けるのが、通貨であるユーロのポイントです。
余談ですが、作曲家のベートーヴェンやモーツァルトはドイツ人。ほかにも、バッハやシューマンなど、ドイツでは大勢の偉大な作曲家を輩出しました。また、ドイツはビールの生産や消費の多い国として知られていますが、意外にも生産量は世界第5位。1人当たりのビール消費量は、年間232杯で世界第3位となっています。
2022年から2023年にかけて2四半期連続でマイナス成長
ドイツの主要産業は自動車産業を中心とした製造業です。この点では、日本の経済構造と似ています。GDPに占める製造業の比率は低下傾向が続いているものの、2019年時点で約2割。日本の製造業が占める割合も約2割と、日本とほぼ同じ割合です。
2019年時点で、ドイツのGDPは欧州で最大、世界でも第4位の約3兆8,620億ドルでした。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済は停滞しましたが、その後は回復。IMF(国際通貨基金)によると、2023年の日本の名目GDP(国内総生産)が前年比0.2%減の4兆2,308億ドルと予測される一方、ドイツは8.4%増の4兆4,298ドルとなる見通しです。2023年、日本は「世界3位の経済大国」の座をドイツに明け渡すことになるかもしれません。
とはいえ、ドイツ経済が順風満帆というわけではありません。というのも、ドルベースの比較では、ドイツ経済の浮上よりも、昨今の円安・ドル高の進行によって日本のGDPが押し下げられたことによる影響が大きいと言えるでしょう。
ドイツの実質GDP成長率は、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でマイナ3.7%と大幅に縮小。2021年、2022年は、同2.6%、1.9%のプラスと拡大しました。2022年時点では、新型コロナ以前の2019年と比べて0.7%増となるなど、パンデミックによる悪影響を払拭した形となりました。経済の拡大を支えたのは個人消費です。2022年は、春ごろに新型コロナの感染対策がほぼ通常化されたため、宿泊や飲食を中心に個人消費が急拡大しました。
ところが、2022年の第4四半期(10-12月)からドイツのGDP成長率は前年同期比でマイナス0.4%と再び減速。2023年の第1四半期(1-3月)もマイナス0.1%と、2四半期連続のマイナス成長を記録しました。2023年第3四半期に関しては同0.0%とかろうじてマイナス成長を回避したことで悲観一色とはならなかったものの、先行きが懸念されます。
迷走するエネルギー政策
ドイツ商工会議所のトップ、ベーター・アドリアン会頭は2023年8月末、ドイツ経済の現状を「もはや欧州経済の牽引役ではなく、ブレーキだ」と述べました。同会頭はドイツ経済が抱える問題として、エネルギー価格の高騰やインフラ不足、専門的な労働者の不足などを指摘しています。
中でも、最も懸念されるのはエネルギーでしょう。ドイツは、2021年のエネルギー自給率が29.0%と低いことに加え、ロシアへのエネルギー依存度が高いという問題を抱えています。2021年時点では、天然ガスの44%、原油の27%をロシアからの輸入に依存していました。ロシアによるウクライナへの侵攻を契機に、原油や天然ガスなどのエネルギー価格が急騰したことに加え、ロシアがドイツへのガス供給を停止したことで、さらにエネルギー価格は上昇します。
たとえば、2023年のドイツの産業用電気代は日本の3.5倍、家庭用の電気代は1kWh(キロワットアワー、時価当たりの価格)=67円まで上昇しています。日本は35円/kWhなので、日本の家庭用電気料金の2倍近い価格です。
ドイツ政府は、ロシアへのエネルギー依存度を下げるべく、米国からのLNG(液化天然ガス)の輸入を増やすなど、エネルギー調達先の多様化を進めています。2030年までに温室効果ガスの排気量を1990年比で55%削減という目標を掲げているほか、2045年にはカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と削減量がプラスマイナスゼロの状態)の実現を打ち出すなど、欧州の気候保護において中心的な役割を担ってきました。
しかし、2022年には一時的に石炭火力発電所を再稼働させるなど、ドイツのエネルギー政策は迷走しています。2023年に入るとエネルギー価格が下落したため、欧州のエネルギー危機は一時的な収束を見せてはいるものの、今後のドイツ経済は再生可能エネルギーの普及やエネルギー調達先の多様化、EV(電気自動車)の普及など、グリーンエネルギーに関する政策がカギを握ることになりそうです。
欧州のインフレは収束。ECBは2024年にも利下げに転換?
昨今のエネルギー価格の高騰で、ドイツには歴史的なインフレが到来しました。同じように物価の急上昇に頭を悩ませていた米国では、FRB(米連邦準備制度理事会)による急ピッチな利上げ政策によって、足元ではインフレ収束が鮮明になっています。
ドイツも同様で、2022年にはインフレ率が10%を超えるなど激しい物価上昇が起きていましたが、ECB(欧州中央銀行)による急ピッチの利上げの影響もあり、2023年11月には2.4%まで下落。市場では来年4月の利下げ観測が浮上するなど、「利上げ」から「利下げ」への転換が行われる可能性が徐々に上がっているようです。
為替の世界では、「両国(地域)間の金利の差が為替相場に影響する」「金利の低い国から高い国へと資金は移動する」などと言われます。2019年以降、欧米の中央銀行がインフレ抑制のために歴史的な利上げを行っていたのに対し、日銀は金融緩和政策を継続。その結果、米ドル、ユーロとも対円では大きく上昇しました。
2020年は5月頃まで1ユーロ=120円を割り込む水準で推移していましたが、その後はユーロの上昇が続き、2023年11月には一時1ユーロ=160円を突破。米ドルベースで円安が加速したことはニュースなどで盛んに報じられていますが、実は、対ユーロでも米ドルと同じように円安が鮮明になっています。今後は、ECBがいつ利下げに転じるのか、利下げの度合いはどうなのか。また、日銀がいつ利上げに転じるのかが、ユーロ・円の動きを左右しそうです。
ここまで、ドイツの基本的な状況から経済などについて述べてきました。ユーロ圏の中では強いドイツ経済ですが、高齢化やエネルギー事情を中心に、構造的な問題を抱えているのも現状です。まずは、低迷中のドイツのサッカー代表が、2024年の欧州選手権で復活を遂げられるのか。そして、ドイツ経済が諸問題をクリアし、欧州経済を力強く牽引できるのかに注目したいところです。