見出し画像

デジタル給与、導入迫る

デジタル給与とは、銀行口座などを介さずに給与を振り込むことができる制度のことです。デジタル給与の導入は福利厚生の充実につながるほか、振込手数料を削減できるなどのメリットがあります。一方でシステム連携費や手間がかかるなどの問題もあるので注意が必要です。

令和4年11月28日に労働基準法施行規則の一部を改正する省令が公布されたことにともない、令和5年4月1日より本格的にデジタル給与が導入されます。[注1]

日本では初の試みとなるため、デジタル給与とはそもそも何なのか、企業や従業員はどう対応すべきなのかなど、疑問や不安を抱いている方も多いでしょう。

 この記事では、デジタル給与について知りたいと考えている方向けに、デジタル給与の基礎知識や仕組み、メリット・デメリット、現時点での企業・従業員の意向について解説します。

 [注1]厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払の概要とこれまでの経緯」

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001016402.pdf

デジタル給与とは

デジタル給与とは、企業が銀行の口座を介さずに、スマートフォンの決済アプリや電子マネーなどを利用して給与を振り込むことができる制度のことです。[注2]

労働の対価として支払われる賃金は、労働基準法第24条により、通貨払いが原則とされています。ただし、労働基準法施行規則第7条の2では、労働者が同意した場合に限り、例外として銀行口座と証券総合口座への賃金支払が認められています。[注3]

今回のデジタル給与は、この労働基準法施行規則第7条の2を改正し、賃金支払い方法に新たな選択肢を加えた形となっています。

 [注2]厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」

 [注3]厚生労働省「労働基準法施行規則」

デジタル給与が導入された背景

デジタル給与が導入された背景には、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化があります。キャッシュレス決済とは、現金を使わずに支払いを行う方法のことで、代表的なものにクレジットカード決済、デビットカード決済、電子マネー、QRコード決済などが挙げられます。

これらの決済方法は以前より存在しますが、キャッシュレス化が進んでいる海外からの観光客への対応、人手不足の解消、新型コロナウイルス感染拡大による非接触決済のニーズ増加などにより、ここ数年は急速に普及率が伸びています。

経済産業省の発表によると、2015年には18.2%だったキャッシュレス決済比率は、2021年で32.5%にまで上昇しています。[注4]

経済産業省はキャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準である80%まで上昇させることを目指しており、デジタル給与の導入もその取り組みの一環といえます。

 [注4]経済産業省「2021年のキャッシュレス決済比率を算出しました」

デジタル給与の仕組み

デジタル給与は、資金移動業者を介して給与を支払う仕組みになっています。

資金移動業者とは、為替取引を営む銀行以外の業者のことです。資金移動業を営むには、あらかじめ内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。

なお、登録を受けたすべての資金移動業者がデジタル給与に携われるというわけではなく、労働基準法施行規則に基づき、賃金の確実な支払いを担保するための要件を満たす一部の資金移動業者のみに限定されます。

ここでいう「賃金の確実な支払い」とは、以下のような要件を満たす支払いのことです。[注1] 

  1. 破産等により資金移動業者の債務の履行が難しくなった場合、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること

  2. 口座残高上限額を100万円以下に設定または100万円を超えた場合でも、速やかに100万円以下にするための措置を講じていること

  3. 労働者に対して負担する債務について、不正な為替取引あるいは労働者に責任がない理由によって損失が生じた際に、その損失を補償する仕組みを有していること

  4. 最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は口座残高が有効であること

  5. ATMの利用などによって、1円単位で口座への資金移動に係る額を受け取ることができ、かつ少なくとも毎月1回は手数料の負担なしで受け取りが可能であること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。

  6. 賃金の支払いに関する業務の実施状況および財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有していること

  7. 1~6のほか、賃金の支払いに関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ十分な社会的信用を有していること

企業は上記の要件を満たし、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者を介してデジタル給与を支払うことになります。

 [注1]厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払の概要とこれまでの経緯」

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001016402.pdf

企業が対応すべきこと

デジタル給与を導入するにあたり、企業が対応すべきことは大きく分けて2つあります。

まず1つ目は、デジタル給与に関するルールの制定です。どの資金移動業者を利用するのか、デジタル給与を受け取る際にはどのような申請が必要なのかなど、基本的なルールを就業規則などに盛り込む必要があります。

2つ目は、従業員の同意を得ることです。

デジタル給与は労働者の同意を得ることを前提とした制度ですので、事業主の一存で勝手にデジタル給与に移行することはできません。デジタル給与を導入しても、労働者の意向によっては、これまで通りに現金払いや銀行振込などで対応しなければなりませんので、デジタル給与を希望する従業員と、それ以外の従業員をしっかり区分し、管理する必要があります。

また、デジタル給与を希望する従業員には、具体的な仕組みやリスク、補償に関して説明し、同意とともに理解を得ておくことも重要なポイントになります。

従業員が選べること

前述のとおり、デジタル給与はあくまで賃金支払方法の選択肢のひとつであり、必ずデジタル給与に移行しなければならないわけではありません。

デジタル給与は、キャッシュレス決済が普及した現代に適した制度ですが、一方で資金移動業者が破綻あるいはサイバー攻撃などを受けた場合のリスクや補償については不透明な部分も多いのが実状です。

従来の支払方法とデジタル給与の特徴をよく理解し、自分のニーズに合った方法を選ぶことが大切です。

デジタル給与の、メリット・デメリット

デジタル給与を導入することのメリットとデメリットを紹介します。

デジタル給与のメリット

キャッシュレス決済が普及している現代において、デジタル給与を導入することは従業員への福利厚生の一環となります。福利厚生が充実すれば、既存の従業員の満足度アップに加え、求人を出す際のアピールポイントにもなります。

また、一般的に資金移動業者への送金にかかる手数料は、銀行振込の手数料よりも安く設定されています。企業側にとっては、給与振込にかかるコストを削減できるところも大きなメリットです。

デジタル給与のデメリット

企業側におけるデジタル給与のデメリットは、システム連携費用や運用工数が増加するところです。銀行振込からデジタル給与へ移行する際は、別途新たなシステム連携を行わなければならない可能性が高く、給与振込にかかる手間とコストが増える可能性があります。

一方、従業員側についても、デジタル給与によって手間とコストがかさむリスクがあります。キャッシュレス決済は以前に比べるとかなり普及していますが、一方で現金や口座引き落としなどの支払方法が大きなシェアを占めているのも事実です。

給与を全額デジタルで受け取ってしまうと生活に支障を来す恐れもあるため、必要に応じてデジタル給与から銀行口座への入金、あるいは現金化の手順を踏まなければなりません。

キャッシュレス決済が自分の支払方法の何割を占めているのかを考慮したうえでデジタル給与を検討することが大切と言えるでしょう。

企業・従業員の意向は?

公正取引委員会が公開しているデータによると、デジタル給与について消費者の4割弱が「検討する」と回答しています。[注5]

キャッシュレス決済が広く普及している今、銀行に振り込まれた賃金を資金移動業者のアカウントにチャージするよりも、初めからデジタル給与を受け取ったほうが便利と感じる方が増えていると推測されます。

一方、企業側としては従業員側の希望割合が4割弱に留まること、デジタル給与への移行に設備投資が必要になることなどから、様子見するところが多いと予測されています。

今後、キャッシュレス決済がますます普及し、従業員側からのニーズや需要が高くなれば、実際にデジタル給与を導入する企業も増えてくるかもしれません。

[注5]公正取引委員会「QR コード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/apr/chouseika/200421_houkokusyo_2.pdf

まとめ

デジタル給与は今回新しく導入される制度なので、当初は様子見する企業も多いと予測されています。

しかし、キャッシュレス化の流れや、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせたフィンテック(FinTech)の進化は今後も加速していくと考えられています。

近い将来、デジタル給与が主流になる可能性も否定できませんので、定期的に動向をチェックしても良いかもしれません。


・当資料は、情報提供を目的として作成しており、投資家に対する投資勧誘を目的とするものではありません。・当資料の内容は具体的な商品を勧誘するものではないので、手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、表示することができません。・投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。・市場見通し等は、お客様の運用方針や投資判断等の参考となる情報の提供を目的としたものです。実際の投資等に係る最終的な決定は、お客様ご自身のご判断で行っていただきますようお願い申し上げます。・当資料に記載された運用商品、手法等は、リスクを含みます。運用実績は市場環境等により変動し、運用成果(損益)は全て投資家の皆様のものとなります。元本が保証された商品、手法ではありません。・当資料は、現時点で信頼できると考えられる情報を基に作成しておりますが、情報の正確性や完全性を保証するものではありません。・当資料に関わる一切の権利は、引用部分を除き弊社に属し、いかなる目的であれ当資料の一部または全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。

資産運用は もっと手間なく、 もっと効率的に