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新NISA制度開始に向けて、法令・政令・省令が定められました ~アセマネ会社によるNISA制度改正のポイント解説(7)

3月28日に令和5年度税制改正法が参院本会議で可決・成立しました。

NISAに関連する法律「租税特別措置法」の条文も確定し、これにまつわる政令・財務省令も3月31日付の官報に掲載されています。

昨年12月の税制改正大綱で示された新NISAに関する法令が固まり、来年1月に向けて準備が進められていくものと思われます。

恒久化や非課税枠の見直しといった部分で改正が入るとともに、つみたて投資枠と成長投資枠の併用や、NISA口座で譲渡をした際の非課税枠の再利用についても所要の手当てがなされていますので、今回はこれを確認してみたいと思います。

再利用できる非課税枠に、購入時の手数料は含まれない

後述しますが、前年末にNISA口座で保有する有価証券の評価額と非課税枠との差額が当年利用できる非課税総枠となります。

年末に評価される有価証券の評価額については、所得税法施行令第二編第一章第四節第三款の規定に準じて計算されるものとされ、手数料等を含まない「代価の額」とされています。

これは現在のNISAでも非課税枠を利用する際に、購入手数料等を含まないのと同じ考えです。

この計算に従えば、NISA口座の有価証券を売却した場合でも、残高から減少するのは手数料を含まない金額となり、その見合いで復活する非課税枠も手数料等を含まないものとなるわけです。

再利用できるからといって、有価証券の譲渡は慎重に

購入時に手数料3千円を支払って10万円の投資信託を成長投資枠で購入したとき、NISA口座での非課税枠利用は10万円。

この投資信託が20万円に値上がりしたときに売却すると、翌年に再利用できるようになる非課税枠は売却代金の20万円でなく、取得時の手数料除きの代価10万円となります。

利益を確定させていくと非課税枠は減っていってしまうという仕組みですから、非課税枠を有効に使うには、値上がりしたからといって売却することなく、長期に運用することが重要です。

逆に、先ほどの10万円の投資信託が5万円に値下がりしていた場合、これを売却すると5万円の損(手数料も含めると5万3千円の損)が確定してしまいますが、翌年には非課税枠は10万円分だけ再利用可能となります。

現在の5万円という値下がりは一次的な落ち込みと考えるなら、余裕資金があれば、売却した5万円に5万円を追加して10万円の非課税枠を利用するということも考えられるでしょう。投資信託の価格が10万円に戻った際には、追加投資した分だけ非課税枠が広がることになります。

ただし、これはあくまで投資信託の価格が元に戻った場合のケースです。更に価格が下がって、追加投資分も損を抱えてしまうこともあるため、しっかり投資を見極めるのが大前提です。

代価(有価証券の対価)の計算は口座ごとに

今回の改正では、NISA口座のなかで「つみたて投資枠」と「成長投資枠」のふたつを併用することができます。

この2つの投資枠で、同じ銘柄を購入したら、購入時の単価は平均化されてしまうのか、それとも別々なのかという点がはっきりしていませんでしたが、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」で別々に管理することが示されました。(租税特別措置法施行令第二十五条の十三第二十八項第一号)

金融機関ごとに別々に

毎年、NISA口座を開設できる金融機関は一つだけですが、逆に言えば年単位でNISA口座を開設する金融機関を変えることも可能です。

そんなとき、複数の金融機関に分かれた非課税口座に同一銘柄の残高があったら、どのように価格は管理されるのでしょうか?

例えば、2024年はAという金融機関でNISA口座を開設し、(「勘定廃止届出書」等、手続きは必要ですが)2025年はBという金融機関でNISA口座を開設するような場合です。

このように複数の金融機関に口座が分かれるときには、AとBで別々に管理することができることが示されています。(租税特別措置法施行令第二十五条の十三第二十八項第二号)

ひとつの銘柄でも、つみたて投資枠と成長投資枠の別(2種類)かける、金融機関の数だけ対価の額があることとなります。

これにより、有価証券を売却する場合には、どの金融機関、どの投資枠の有価証券で行うかにより、翌年(再)利用できることとなる非課税枠が変わることになるため、売却にあたっては、各金融機関・各投資枠の単価を比較することも必要かもしれません。

【租税特別措置法施行令第二十五条の十三第二十八項】
第二十六項の規定により対象非課税口座内上場株式等の購入の代価の額の総額を計算する場合には、次に定めるところによる。
一 当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者の有する同一銘柄の対象非課税口座内上場株式等のうちに対象非課税口座に設けられた特定累積投資勘定に係る特定累積投資上場株式等と当該対象非課税口座に設けられた特定非課税管理勘定に係る上場株式等とがある場合には、これらの対象非課税口座内上場株式等については、それぞれその銘柄が異なるものとして、第二十六項の規定を適用する。
二 当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者が二以上の対象非課税口座を有する場合において、当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者の有する同一銘柄の対象非課税口座内上場株式等のうちに対象非課税口座に係る対象非課税口座内上場株式等と当該対象非課税口座以外の対象非課税口座に係る対象非課税口座内上場株式等とがあるときは、これらの対象非課税口座内上場株式等については、それぞれその銘柄が異なるものとして、第二十六項の規定を適用する。
三 当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者の有する同一銘柄の上場株式等のうちに対象非課税口座内上場株式等と当該対象非課税口座内上場株式等以外の上場株式等とがある場合には、これらの上場株式等については、それぞれその銘柄が異なるものとして、第二十六項の規定を適用する。
四 対象非課税口座内上場株式等が事業所得又は雑所得の基因となる上場株式等である場合には、当該対象非課税口座内上場株式等を譲渡所得の基因となる上場株式等とみなして、第二十六項の規定を適用する。

非課税枠再利用は翌年の2月以降?

前述したとおり、非課税枠については年末の非課税枠の利用総額をもとに、翌年に利用可能な非課税枠が決まります。

しかし、この当年の非課税枠計算には時間がかかりそうです。

私たちが有価証券を売却する都度、そのデータが金融機関から所轄税務署に連絡されるのではなく、年末12月31日時点での残高に係る非課税投資総額が「翌年1月31日」までに連携される仕組みのようです。(租税特別措置法第三十七条の十四第二十七項)

12月31日時点での非課税枠利用の合計額が纏められ、これが金融機関にフィードバックされることになりますが、「1月31日締切」のスケジュールだと、当年利用できる非課税枠が正式に金融機関に示されるのは2月以降となりそうです。

ここ暫くは、生涯投資枠(非課税枠)1,800万円に達することがないため、再利用枠がないためにNISA口座への追加投資ができないということにはなりませんが、生涯投資枠を満たしてしまった際には不便かもしれません。

当年の非課税枠が固まらないので、1月分の積立ができなくなるとかいうこともあるかもしれません。

仕事柄、DX等デジタルの領域に触れる機会は多いですが、日進月歩のこの領域がNISAでも広がれば、もっと使いやすい制度になるものと思われます。非課税枠がなくなるまでの5年間でNISAにもDXが進むことを期待しています。

【租税特別措置法第三十七条の十四第二十七項】
金融商品取引業者等の営業所の長は、令和七年以後の各年の十二月三十一日(以下この項において「基準日」という。)において当該営業所に開設されていた非課税口座に設けられた特定累積投資勘定又は特定非課税管理勘定に受け入れている上場株式等がある場合には、当該非課税口座を開設している居住者又は恒久的施設を有する非居住者の氏名及び生年月日、当該上場株式等の購入の代価の額に相当する金額として政令で定める金額その他の財務省令で定める事項(以下この項及び次項において「基準額提供事項」という。)を、基準日の属する年(同項及び第二十九項において「基準年」という。)の翌年一月三十一日までに、財務省令で定めるところによりあらかじめ税務署長に届け出て行う情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第六条第一項に規定する電子情報処理組織を使用する方法として財務省令で定める方法により当該金融商品取引業者等の営業所の所在地の所轄税務署長に提供しなければならない。この場合において、当該金融商品取引業者等の営業所の長は、当該基準額提供事項につき帳簿を備え、当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者の各人別に、基準額提供事項を記載し、又は記録しなければならない。

旧制度から新制度への移行は自動で

既にNISA口座を開設済みの方、または今年新たにNISA口座を開設しようという方の契約継続についても、租税特別措置法附則の経過措置として定められました。

非課税口座廃止開始届出書を提出している等の事情がない限り、12月31日に「一般NISA口座」または「つみたてNISA口座」のいずれかを開設していれば、自動的に2024年1月1日に「つみたて投資枠」も「成長投資枠」の両方が利用可能な「新NISA口座」が開設された(特定非課税累積投資契約を締結した)ものとみなすようです。

面倒な手続きなく、新NISA制度へ連続するように仕組みが整えられました。

新NISAに関心があるのであれば、旧制度の非課税枠も合わせて有効に利用する観点から、今年からNISAを始めてみてはいかがでしょうか。

今回は新NISA制度の根拠となる税法等の改正内容について気になるところを見てみました。

なお、今回の記事は筆者個人の見解であり、当社の公式な見解を示すものではありません。

また、税務等に関する情報は常に正確であることを保証するものではありません。必ず公式の情報源をご確認ください。

投資等にあたっては各種の情報にあたり、ご自身の判断にて実行されますようお願いします。

「そもそもNISAって、どういうものかわからない。」ときには、(未だ旧NISAに関する情報ですが、)投資信託協会のウェブサイトで簡単にNISAのしくみ(「投資にかかる税金がゼロに!NISA(ニーサ)の話」(注))が解説されていますので、参考になると思われます。

(注)投資にかかる税金がゼロに!NISA(ニーサ)の話【投資信託協会】

【筆者紹介】結城宗治
日本生命保険相互会社入社後、国内債券投資、財務企画を経験後、投資信託販売事業の立上げを担当。ニッセイアセットマネジメントでは投資信託企画の担当を経て、ファンドラップサービスGoalNaviを立ち上げ。DX推進担当。

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・当資料で、筆者の紹介のある記事においては、掲載されている感想や評価はあくまでも筆者自身のものであり、ニッセイアセットマネジメントのものではありませんが、ニッセイアセットマネジメントと筆者との間でこれらの表示に係る情報等のやり取りを直接的又は間接的に行っているため、実質的にはニッセイアセットマネジメントの広告(「不当景品類及び不当表示防止法」におけるニッセイアセットマネジメントの表示)等に該当する場合がございますので、ご留意願います

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