一生涯にわたる資産形成のためのヒント~⑤パートナーと子ども、ダブルインカム編~
おおむね、今の時代、70%が共働き夫婦です
会社員と専業主婦(夫)という形で仕事と家事を分担するライフスタイル、かつてはスタンダードなものでしたが、今は女性の多くが就職をして社会人になる時代です。
結婚をしても共働きを続けるカップルが増えており、夫婦のふたりとも働いている共働き夫婦が増えています。厚生労働省の資料によれば、おおむね70%が共働き世帯となっています。
ニッセイ基礎研究所生活研究部上席研究員の久我尚子氏の分析では、若い世代ほど共働きの傾向は高まることが明らかになっており、54歳以下の共働き世代は70%前後だそうです。
今回とり上げる子育てをしている共働き夫婦は、共働きで忙しく働きながら、子育てもがんばっておられる、忙しい人たちです。
正直言えば「目の前が手一杯で、将来のお金のことなんか考える余裕がない!」という人も多いことでしょう。
共働き夫婦、まずは家計管理をしっかり
まず、共働き夫婦が気をつけたいのは「日々の家計管理」をしっかり行うことです。
それぞれが給与振込口座を持っていて、クレジットカードも持っている共働き夫婦の場合、家計の支出もそれぞれがバラバラに行っており、全体としての収支のコントロールができていないことがしばしばです。
結婚前から正社員同士であった夫婦の場合、お互いの年収をよく知らないということもあるようですが、これはあまりいいことではありません。
子育て、住宅購入など、夫婦が協力して負担をしていかなければならないライフイベントがあるのに、毎日の家計の支出や私的なおこづかいの額が不明瞭なままでは資産形成はままなりません。
特に子育てについては1人あたり2000万円くらいの出費が生じますし、特に高校と大学の7年間には学費負担が集中します。
「こちらが家計の負担が多いのだから、相手のほうが貯金をしてくれているはず」と思っていたら、お互いに同じことを考えていて学費準備ゼロ、では困ってしまいます。
夫婦の家計の「見える化」を行い、給与明細や年末調整時の源泉徴収票を見せ合うところからスタートし、日々の家計の共通化と、負担割合の明確化を図っていきましょう。
このとき役に立つのはスマートフォンのアプリなどで家計管理ができるオンラインサービスです。お互いの銀行口座やクレジットカードを連携させるだけで、家計簿が自動作成され、記帳の負担は大きく軽減されます。
共働き正社員夫婦は、老後に笑える3つの理由
学費準備や住宅ローンの返済は大変ですが、共働き夫婦は老後の準備についてあまり焦らなくてもいいかもしれません。
理由は3つあります。
第一に「厚生年金を2人分もらえること」です。国のモデル年金額は専業主婦(夫)が国民年金のみをもらい、働き手が国民年金と厚生年金をもらうモデルとなっていますが、共働きの場合、夫婦どちらも厚生年金をもらえることになります(正社員の場合。非正規雇用の場合は勤務時間によって厚生年金の適用となる場合があります)。
モデルの厚生年金額は月9.4万円なので、時短勤務などの影響で一方の年金額が7割相当だと仮定しても、月6.6万円くらいの年金額になります。女性の標準的な老後にあたる25年分を考えれば、1980万円もの老後の収入が追加されることになります。
一見すると厚生年金保険料の負担は重いですが、「老後に2000万円」に相当するくらいの見返りが老後に得られる可能性があるというわけです。
第二に「将来の退職金の増加」です。こちらも多くの会社では退職金・企業年金制度をもっており、正社員夫婦であれば、それぞれがもらうことで2人分の退職金を手にしてセカンドライフがスタートします。こちらも1人分の退職金だけで2人の老後をやりくりするよりも大きな余裕となります。
各社の規定によって受取金額は異なりますが、公的な調査では中小企業では1000万円程度、大企業では2000万円程度といわれています。もし2人分の退職金が入金されたとしたら、これまた「老後に2000万円」問題が一気に解決することになるわけです。
第三の理由は、「ほどほどの生活水準に慣れている」ということです。子育て中の共働き夫婦は、子育て費用が現役時代の大きな負担となります。徹底的に節約をするなど、家計には余裕のない日々が続きます。
しかし、逆説的に言えば、節約をすることには慣れている、ともいえます。子どもが社会人になり、学費負担や子の食費負担等がゼロになると、とたんに生活の余裕が出てきますし、老後も公的年金額の範囲でやりくりできることがあります。
老後に向けた上積みを意識することは大切ですが、あまり老後におびえる必要はないのかもしれません。
NISAやiDeCoを活用して計画的に学費準備と老後準備を考えてみよう
そうなってくると、共働き子育て夫婦の資産形成の目標は「現役中に用いる資金ニーズ(特に子の教育資金)」と「老後のさらなる余裕づくり」となってきます。
NISAを活かして学費準備を計画的に行おう
共働き子育て夫婦の場合は、今シングルインカムである夫婦のように「働いていないほうも働き始めて年収を100万円くらい増やす。それで、高校入学した子どもの学費に充てる」というような選択肢が取れません。言い換えれば、事前に計画的に学費準備をしておくことが大切です。
文部科学省の「令和3年度 子供の学習費調査」によれば、高校の学習費の総額を公立で154万円、私立で315万円としています。
学校外活動費(塾や習い事)については、高校受験を控えている中学生が年37万円程度、大学受験を目指す高校生が年25万円程度となっています。これも少なくない学費負担です(もちろん1年時が低く、3年時の通塾費用が高くなります)。
大学の4年間については、日本政策金融公庫「教育費に関する実態調査」によれば、680万円かかるとしています(進路によってさらに負担の違いがある)。1年あたりの金額としてはきわめて大きい負担であり、その年の稼ぎから全額払うのは大変です。
となると、子どもが未就学児の段階、あるいは小学校通学の時点で一定の学費準備を進められるのが理想的です。大きなブロックとしては「高校と大学の受験・入学費用」を優先的に準備し、さらに「大学の学費の1/2~1/3」を確保できると、学費のためのやりくりはぐっと楽になります。そのためにも小学校卒業までにがんばって学費準備をしたいところです。
入学金準備のイメージとしては「200万円程度の資産づくり」をイメージするといいでしょう。その次に大学の学費の半分にあたる「300~400万円の資産づくり」の確保を目指します。
幼保無償化で保育負担が軽減される未就学の3年間と小学校の6年間、この9年間に毎月2~3万円の積立ができれば、216~324万円の元本が貯まります。ボーナスごとに10万の円積立ができれば元本はさらに180万円上乗せされます。
まだ高校や大学の入学が遠い時点では資産運用の力を借りることも可能です。中学3年になった頃には利益確定を意識していただきたいですが、それまでの期間は積立投資のスタイルで学費準備を行ってもいいでしょう。
運用収益が課税されないNISA制度は、解約の制限がないのでリスク資産形成に活用しやすい仕組みです。一定額の積立投資の設定をして、堅実な積み上げをしていきましょう。
老後のゆとりづくりはiDeCoを活用
老後に向けた余裕が、厚生年金や退職金制度のおかげで一定のメドがたっているとはいえ、まだ油断できるものではありません。
まず、退職金の有無や水準については確認をしましょう。企業によっては退職金制度がまったくないところもあります。あるいは水準が思ったより多くないということもあります。こればかりは各社ごとの定めによるので、社内で情報収集をしてみてください。
また、転職経験者の場合、転職時に退職金を受け取って、使ってしまったということもあるでしょう。転職後の勤務期間に応じた退職金額は、新卒から定年まで勤め上げた人より少なくなりますので、自分で老後の備えを増やしておく必要があります。
また、老後資産形成の不安要素として、「未来の必要額が増えてくる可能性」もあります。この20年ほどは物価がまったく上昇しない期間でしたが、この数年、物価上昇がはっきりとしてきました。毎年2.5%の値上げを20年繰り返したとすれば、モノの値段は約64%上がる計算になります。「老後に2000万円」は「老後に3277万円(64%増)」となってもおかしくないわけです。
老後の備えとして活用したいのはiDeCo(個人型確定拠出年金)制度になります。こちらは60歳以降まで中途解約の制限があるため、学費準備などには向いていませんが、積立時点の所得税や住民税を軽減させてくれるため、共働き夫婦には効率的な資産形成手段となります。
働き方や会社の企業年金制度の有無により、月1.2~6.8万円と積立額の違いがありますので、不明な点はコールセンターで確認をしてみてください。
仮に月2.3万円のiDeCoに加入できたとしたら(企業年金のない会社員の限度額の例)、夫婦がそれぞれ加入することで月4.6万円の積立になります。税率を20%と仮定すれば、年55.2万円の老後の資産増に対し、年11.04万円の節税効果が生まれることになり魅力的です。
iDeCoは65歳まで積立が可能ですから(公的年金制度の加入者であることが条件)、35歳からなら30年、40歳からでも25年の積立が可能です(将来的には70歳までの積立可能とする予定がある)。
仮に月2.3万円を35年積み立て、年3.5%の利回りが得られたとすればなんと1891万円の資産に成長します。これだけの上積みができれば(できれば夫婦で2口座のiDeCoで資産形成ができれば)、お金の不安はほとんどないセカンドライフを楽しめるはずです。
借り入れをできるだけ抑えて、楽しい老後を迎えよう
共働き夫婦の場合、困ったときにお金を借りることは難しくありません。メインバンクで教育ローンの相談をすれば、学費のほとんどを低利で借りることもできます。安定的な給与収入があるため、審査に落ちることがあまりないからです。
しかし、老後を見据えたとき、住宅ローンに加えて教育ローンも抱えてしまうことはうまい選択ではありません。返しきれずにリタイア年齢を迎えてしまうと、退職金で精算をすることとなってしまい、せっかくの共働き夫婦のメリットが失われてしまいます。
家事や育児と仕事の両立は大変ですし、住宅ローンの返済に学費準備とお金の問題にも悩まされる日々が続きますが、夫婦が協力して乗り切ることができれば、楽しく余裕のある老後を迎えることは可能です。
共働き夫婦の苦労の日々は、老後に報われる。そうあるために、資産形成にも意識を配ってみてほしいと思います。
【筆者紹介】
山崎 俊輔:フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。企業年金連合会調査役として確定拠出年金の調査、制度改善要望等を担当。老後の年金や退職金制度も考慮したトータルな資産運用プランを提案。1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。
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