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一生涯にわたる資産形成のヒント~①老後の必要資金を考える~


国民の大きなお金の不安 それは老後資金

日本人のお金の悩みの最たるものは「老後のお金の不安」であるといえます。

実際、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」では、お金を貯める理由の第1位が「老後の生活資金にあてるため」となっています。

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査] 令和4年」を基に
ニッセイアセットが作成

「人生100年時代」と言われるようになり、私たちは長生きをする時代を実感するようになりました。しかし、その備えが万全ではないことを感じ取っているのでしょう。

確かに日本人の平均寿命は世界トップクラスです。また、健康で過ごせる期間を示す健康寿命では世界1位となっています。(WHO「世界保健統計2023年」より)

これはつまり「元気で長生き」する高齢期がやってくることを意味します。一方で元気で長生きということは、2つのマネープラン上の意味が生じます。

それは

  • 仕事を辞めて無収入になった以降の期間が長期にわたること

  • リタイア後は隠遁するわけではなく、アクティブに活動できる力があること

この2つは「老後のための準備額も多く必要になること」を意味すると言えます。

厚生労働省が発表した65歳時点での平均余命でいえば、男性が約20年、女性が約25年の「老後の時間」があると言えます。もちろんもっと長生きをする可能性も少なくありません。

そして、老後のお金の準備は「リタイアまでに完結させる必要」が高いです。なぜなら、リタイア後にリタイア後のお金を生み出すことは基本的には難しいからです。

そう考えると、私たちが老後のお金の心配をすることは、マネープラン上も正しい考え方ですし、また現役時代にしっかり考え、しっかり行動しておく必要があるテーマということになります。

老後のお金の準備は4本柱で考える

ではまず、最初に老後のお金の準備方法を分解して整理してみましょう。
基本的に、老後のお金の準備は4本柱で考えてることができます。

1つは公的年金です。
国の年金制度に加入していると、その加入状況に応じて一定の年齢以降、一生涯にわたって年金を受けることができます。
ここではきちんと「加入する」ことが重要です。実は老後の収支において一番大きな割合を占めているのが国の年金収入であったりします。

2つは会社の退職金・企業年金制度です。
会社員のおおむね4分の3は会社に退職金の制度があって、退職時にまとまったお金を受け取れます。これを年金払いしてくれることもあり企業年金制度といいます。自力でなかなかうまく貯められないという人にとっては、しばしば最大の老後のお金の準備枠です。

3つめは会社の高齢期雇用制度の活用です。
長く働くことができれば、お金を取り崩して暮らす老後は短くなります。あるいは老後のために貯蓄をする期間を延ばすこともできます。そして、長く、かつよい待遇で働ける社会へ変化が始まっています。

そして最後の4つ目が、自助努力による老後資産形成ということになります。
NISA(少額投資非課税制度)や iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する人は、税制優遇のメリットを活用しながら、有利に効率的な資産形成を行うことができます。

4つの柱は1つだけで老後をやりくりするものではありません。組み合わせて準備し、組み合わせて老後をやりくりしていくことになります。

1:公的年金は破たんする可能性は低い 長い老後の基礎的な生活費を支えていく仕組み

それぞれもう少しだけ詳しく見ていきましょう。まずは国の年金制度です。

国の年金制度には誤解や不信も根強いものがありますが、実態として多くの高齢者の老後の生活を支えていく基盤として機能していますし、その役割はこれからも変わらないことでしょう。

年金破たん論のほとんどは非現実的なものだといえます。20年前も40年前も「少子高齢化で年金制度は破たんする」と言われましたが、ご存じの通り、まだ年金制度は破たんしていません。

積立不足の心配もほとんどありません。200兆円以上の積立金を確保した国は日本とアメリカくらいしかなく、ほとんどの先進国は、目の前の保険料を数カ月後の年金給付に用いています。それぞれ加入条件などの制度が異なるので一概には言えませんが、日本の年金制度がダメなら世界中の年金制度は破たんする可能性が高いと思います。

さて、日本の公的年金制度の役割を確認しておきましょう。
厚生労働省の令和5年度の67歳以下の新規裁定者(新たに年金受給権を取得する方)の年金額の例をみると、会社員が加入している厚生年金制度(国民年金にも同時に加入している)に夫が加入、妻が専業主婦として国民年金制度に加入していたモデルでは月21万円程度の収入があるとしています。

金額としては「もう少し欲しい!」と思うかもしれませんが、日本人の平均余命を考えるとこの年金を20~25年にわたってもらい続けることができますから、その合計額は5,000万円を超えるほどです。

また、日本の公的年金制度は長生きをしたときは無条件で年金を支給し続けてくれる仕組み(終身年金という)なので、途中で年金収入がなくなってしまうという、長生きの経済的心配をする必要はありません。手元の預金通帳が残高ゼロになっても2カ月に1度、2月分の年金は振り込み続けてもらえます。

国の年金は「働けなくなったときに、日常生活に困らない水準を国が一生涯サポートしてくれる」役割を担っているものです。そしてその役割をこれからも維持していくことでしょう。

2:会社の退職金・企業年金制度をよく知っておく

厚生労働省の「就労条件総合調査(令和5年)」によると、おおむね4分の3の会社には退職金制度もしくは企業年金制度があります。大企業になれば実施率は9割を超えます。これは退職時に一定のルールにもとづきまとまったお金を支給するもので、勤続期間や職階級に応じて金額が決まります。

老後に向けた資産形成を考えたとき、会社があなたに代わって、定期的な積立と運用をしてくれている、と考えてみるとこれほど助かる仕組みはありません。

手元で貯めている積立の多くはすぐ近くにあるお金のニーズのためです。来年の一人暮らしのため、数年後の結婚資金のため、5年後の住宅購入のため、10年後の子の高校・大学の学費のため、という感じです。そうなると老後のことまで手が回らないことがほとんどです。

このとき、退職金・企業年金制度があれば、会社が在職中に自分に代わって、お金を貯めてくれて、退職時にまとまったお金を支給してくれることになります。企業年金制度では年金払いも選択できるため、老後の生活がより安定します。

一方で、多くの会社員が自分の会社の退職金制度について理解がないことが明らかとなっています。フィデリティ退職・投資教育研究所(現、フィデリティインスティテュート退職・投資教育研究所)の高齢者の金融リテラシー調査でリタイア世代に退職金額を知ったタイミングをたずねてみたところ、定年の1年前(60歳定年なら59歳まで)よりも早く、自分の退職金額を知っていた人は2割にもなりませんでした。

まずは自分の会社の退職金制度の有無や制度の種類、金額についてチェックしてみましょう。会社に何年か勤めていたのであれば、社内制度を調べる方法はあるはずです。イントラネットの規程をチェックするなり、人事部の同期社員に聞いてみるのもいいでしょう。企業年金事務局があれば相談してもOKです。

支給金額の違いは各社各様で違いが大きいことも注意点です。一般には大企業ほど金額が大きくなりますが、統一ルールはありませんので各社の定めによります。少なくとも500万円前後なのか、1,000万円前後なのか、それとも2,000万円以上もらえるのかぐらいは把握しておきたいところです。

3:リタイア時期になったらどこまで働くかを考える

3つめの柱として大きな役割を担い始めているのが「リタイア前後の働き方」です。日本では60歳定年企業がまだ多いものの、定年年齢を引き上げる動きも見られます。また法律により希望者は全員、原則として65歳まで働ける仕組みが整っています。

今までは60歳以降は低賃金であることがしばしばでしたが、人材不足の世の中にあって、また同一労働同一賃金の原則の普及に伴い、待遇が改善している傾向があるそうです。また、65歳以降も働ける会社が増えています。

リタイアをすると、年金収入以外の定期収入がなくなりますから、貯蓄をしてさらに未来の老後に備えるわけにはいきません。公的年金の収入は基本的に目の前の生活費として消えていくからです(生活そのものは年金給付が続くので破たんするわけではない)。

そう考えると、「取り崩しをする期間が短くなる」と同時に「老後に備える期間が長くなる」のが長く働き続けることのメリットとなります。

国の年金は65歳支給開始を現状では堅持していますので、私たちはむしろ自分でいつまで働くかを決定する時代にきています。

しかも、公的年金の受給開始年齢を66歳以降まで遅らせると年金額を増額させることもできます。これを繰り下げ受給といいますが、1年遅らせるごとに8.4%年金額が増額、最大で75歳からもらうと84%増となります。受け始める年齢までは無年金となりますが、働いて収入がある場合は検討してみるといいでしょう。

今から誰でもできること 「自分なりの老後資産形成」のスタート!


さて、4つの柱のうち、ここまで説明してきた3つの柱は、自分自身で若いうちからコントロールできるものではありません。

公的年金制度は法律に則って、粛々と保険料を納めるしかありません(厚生年金保険料は給与に比例し9.5%を本人は納める。納付手続は会社が自動的にやってくれる)。

2つ目の柱、退職金・企業年金制度の有無や水準は会社の制度によります。自分で上乗せをすることができる会社もありますが少数派です。

第3の柱、高齢期雇用制度についても会社次第です。しかも改定される可能性が高いので自分が定年退職を迎えたときに判断をするしかありません(といっても、70歳、75歳と長期勤続できるほうへ改定され、また待遇も向上するほうへの改定となるでしょうから、悪いことではありませんが)。

となると、第4の柱を自分なりに考え、実行しておくことが現役時代に行える、具体的に老後に備える方法ということになります。自助努力による資産形成です。

確かに老後に向けて備えることは簡単ではありません。子の学費を後回しにしてでも自分の老後に備える人は多くはないでしょう。しかし、自分の老後もやってきます。

できれば、子どもの未来のためだけではなく、自分の未来のためにもお金の準備をしておきたいところ。NISA(少額投資非課税制度)や iDeCo(個人型確定拠出年金)を上手に活用して資産形成を行いたいところです。

次回以降は皆さんのライフスタイル別により具体的な老後への備え方を考えてみます。

【筆者紹介】
山崎 俊輔:フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。企業年金連合会調査役として確定拠出年金の調査、制度改善要望等を担当。老後の年金や退職金制度も考慮したトータルな資産運用プランを提案。1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。

・当資料で、筆者の紹介のある記事においては、掲載されている感想や評価はあくまでも筆者自身のものであり、ニッセイアセットマネジメントのものではありませんが、ニッセイアセットマネジメントと筆者との間でこれらの表示に係る情報等のやり取りを直接的又は間接的に行っているため、実質的にはニッセイアセットマネジメントの広告(「不当景品類及び不当表示防止法」におけるニッセイアセットマネジメントの表示)等に該当する場合がございますので、ご留意願います。

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