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シャープ公式X運営者の山本さんを格付け!? SNS運用と資産運用、共通の極意に元・ファンド格付け担当が迫る

@SHARP_JPは、企業公式アカウントでありながら驚異のフォロワー数80万人超。そのSNS運用哲学への好奇心を抑えられない元・ファンド格付け担当者が、アカウント運営者である山本氏を徹底調査!その結果は…?

ツイートは“お金”をかけない広告行為

笹岡:私は以前、資産運用コンサルタント会社でファンド(投資信託)の調査・分析、特にファンド運用を担うファンドマネジャーへのヒアリングを重視して行い、そのファンドが投資対象として適切かどうかというような判断=格付けをしていました。以前から「シャープ公式Xがすごい!」と耳にしていましたので、“運用”違いではありますが、山本さんにSNS運用の哲学などをお聞きしていきたいと思います。

さっそくですが、山本さんはシャープに入社してから、どんな仕事をしてきたんですか?

山本:たまたま配属されたのをきっかけに、ずっと広告に携わっています。テレビ、新聞、ウェブ…と媒体は変わっても、基本的に広告というのは、お金を使って人を振り向かせるもの。ですが、SNSが出てきたことで、ただお金を使えば全国津々浦々の人たちに届けられる時代ではなくなりました。

一方でSNSは、東日本大震災後にインフラとして有効であることが分かり、企業も注目し始めた。そして2011年5月、当社も企業公式アカウントを開設し、私が運用担当になりました。

山本隆博さん(シャープマーケティングジャパン株式会社)@SHARP_JP の中の人=シャープ公式Xの運営者。2024年2月時点でフォロワー数83万人を突破。漫画家支援サイト「コミチ」に連載中のコラムをまとめた『シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』も話題に。

笹岡:最初のツイートから、もう10年以上になるのですね。ずっと広告を続けている感覚ですか?

山本:結果的にツイートも「買ってもらう」「選んでもらう」ところに迂回しながらつなげていくので、僕のやっていることは広告行為だと思っています。でも、僕の給与以外にはお金を使わない。

笹岡:それはどうして…?

山本:ご存じのように当社では経営危機があって、リストラが行われました。真偽は分かりませんが、ご家族だという方からリプライをもらうことも。多くの人の人生を変えながら、それでも翌年には当たり前のように広告にお金をかけ続ける様に、僕は耐えられなくなったというか、問題意識を改めて感じたんです。それからずっと、お金を使わないで、どうやって広告行為ができるかを考え続けています。

笹岡:なるほど。だから、Xの有料プラン発表後も利用されていないのですね。私は、話題になっているツイートはチェックしたりしますが、宣伝だったらプレスリリースを見ればいいし…と思っていて。企業アカウントだからこその難しさがありますよね?

山本:そういうことですよね。企業の言うことなんて、わざわざ聞く義理がない。普通に「新しい洗濯機が今日発売です」と発信しても、受け入れる義理があるのは、ちょうど洗濯機が壊れている人だけ。その義理をどうやって補完するのか。おそらく以前は、お金を払って見てもらってきた。でも今は、消費者の方が広告を見ないためにお金を払う時代ですよね。

引き継ぎは“オールナイトニッポン“のように

笹岡洋平(ニッセイアセットマネジメント株式会社)ソリューション部チーフ・ポートフォリオマネジャー。元・資産運用コンサルタント会社のシニア・アナリストとしてファンドの調査・分析などを担当。2022年4月から現職。

笹岡:ちなみに山本さんが休みの日って、ツイートは?

山本:しないですね。

笹岡:Wチェック体制もない?

山本:ないですね。

笹岡:ガイドラインは?

山本:僕の中にはありますよ。

笹岡:なるほど! となると、山本さんは今の公式アカウントを未来永劫続けていくような思いはないのでしょうか?

山本:うーん。そもそも、僕は公式アカウントで「シャープの誰から買うか」を確立できないかと考えていて。

笹岡:つまり、「山本さんから買いたい」と。

山本:例えば、親戚が働いている会社って多分イメージがいいですよね。それと同じで、会社名が主語の発信ではなく、人格を立ち上げられないかなと。そうすれば、聞く義理がうまれるような気がした。そのために、頑なに一人でしゃべり続けてきたというのがあります。

僕が想定していたよりもアカウントが大きくなってしまったから、継続しなきゃいけないという目線が生まれたのはよく分かっています。それで言うと、ラジオの深夜放送でオールナイトニッポンがあるじゃないですか。代替わりするDJが、自分の言葉で割とリスナーと距離が近いコミュニケーションをとり続けている。僕がやっていることも少し近いと思っています。ずいぶん長者番組になってしまったけれど、引き継ぐ時は、「DJが変わります」と言って、次の人に自分の言葉でしゃべってもらえればいいんじゃないかと。

毎日“エゴサ”で定点観測

笹岡:すごく失礼な質問になりますが、山本さんの給料はフォロワー数で決まったりするのですか?

山本:決まらないです笑。

笹岡:そうなんですね。これまでのお話で信念を持って続けていらっしゃることは分かったのですが、となると一番の原動力はなんでしょうか? 

山本:お客さんと直接しゃべれるようになったのは、たまらない面白さを感じるわけです。ずっと自社製品を売る行為を仕事にしてきましたけど、お客さんに「ありがとうございます」と伝えられる機会はなかった。それが今は、「買った」というリプライがいっぱいきて、直接お礼を伝えられる。けっこう革命的で、心身にとってこんな健全なことはないと思っています。これがなかったら、やめていたと思いますけど。

笹岡:商品の仕様についての細かい質問や、他社製品と間違えている人にも返しているのは、どんな気持ちから?

山本:僕が量販店の店頭にいたら答えていることと同じです。例えば、当社は食洗機を発売していないので、ほかの会社さんのものですよと伝えています。普通のことですよね。

笹岡:キャラをつくっているわけではなく、あくまで一人の人間として、一人の販売員としてSNSを運用されているのですね。お話を聞く前は、「何でもあり」なのかと思っていましたが、もちろん社会通念上アウトなことはやらないし、聞かれたことに対してまともに回答することを徹底している。結果的にそれが、ほかの公式アカウントとの違いになっていると。

山本:「まともな振る舞い」をしていれば、面白みが生じるのが企業アカウントのずるいところでもあるんですけど。

笹岡:いろいろな話題に敏感な印象ですが、どうやって情報を得ているんですか?

山本:社名でずーっと、エゴサをしているだけです。製品名も入れない。定点観測だからこそ、よい時も悪い時も微細な変化に気づくことができます。

笹岡:エゴサですか。管理・検証という意味ではやったほうがいいかもしれないけれど、嫌なコメントも見つけるわけじゃないですか。それでも?

山本:物をつくったり売ったりする人が、消費者にどう使われているか、どう思われているかを知るのは義務だし、エゴサしない人はマーケティングをする資格がないと考えています。僕は地蔵のように毎日見ていると、うねりみたいな感覚があって、それをグイッと把握して、言葉に変換してツイートする。僕の中にノウハウみたいなものはあります。

笹岡:なるほど。山本さんには、お師匠さんみたいな方がいるんですか?

山本:大御所と呼ばれるコピーライターの方と仕事をする機会があったので、影響を受けています。「なんとなくいい感じ」に逃げない。日本語は、主語を消すことが簡単で、そうすれば雰囲気で伝えられる。でも、その主語を消さずにどこまで言えるかを追求する姿勢を学びました。あとは、会社で広告をつくろうと思ったら、だいたい主語は「わが社は」になるけれど、「私は」でどこまでメッセージを書けるかとか。今のツイートもそうですね。

運用哲学は、その人の“矜持”

笹岡:山本さん、ありがとうございました。ヒアリングは以上で終了です。

山本:えっ。

笹岡:すみません笑。運用会社やファンドマネジャーへのヒアリングも、組織のこと、運用哲学、それを補完する材料などを確認します。組織では、運用体制やチームメンバーの経験。運用哲学では、「目指す成果」「なぜその運用をしたいのか」「どのように長期で勝っていくのか」などですね。SNSに無数のアカウントがあるように、運用業界にもさまざまなファンドがあり、ファンドマネジャーがいます。成果を出しているベテランのファンドマネジャーは、やっぱり一本筋が通っている方が多いです。まさに、山本さんのように。

山本:成果というのは、どれくらいのスパンで見るんですか? 例えば、運用する人によって、「この人は10年ぐらい見てもいい」とかも?

笹岡:決まりはありませんが、一つの目安としては3年ですね。

山本:成果を出せる人、出せない人がいますよね。想像ですが、誰かの手法を模倣したりもできるのかなと。でも、そうだとしたらみんながうまくいっていますよね?

笹岡:たしかに、実態として模倣のような運用もあると思います。例えば、どの企業の株をファンドに組み入れるかという点では、リサーチなどを元に先の先まで見据えているか。今は生活必需品関連銘柄が底堅いけれど、今後はAI関連銘柄がそれに代わるようになるかもしれないと考えるのか、ただ「生活必需品銘柄が底堅い」に倣い、時代の変化に対応できないのか。オリジナルの人、信念のある人の話を聞けるのは調査・分析の仕事の醍醐味ですね。

山本:なるほど、投資哲学というか、その人の矜持みたいな。

笹岡:そうですね。私は職業柄、運用報告書などの資料を見れば運用方針などはだいたい分かります。ではなぜファンドマネジャーと対話をするのかというと、直接その人のスタンスを感じ、厳しい局面でも逃げずにどう戦うのかを聞きたいというのがありました。

山本:ちなみに、投資家の皆さんは常に勝つとは思われていないですよね?

笹岡:どうでしょうか。今は運用会社で働いているので、ファンドについて正しく理解し、正しくお客さまに伝えて、ご納得いただいて投資していただくことを大事にしています。

山本:なるほど。僕は、ツイートしたら製品が売れると思われることがある。それこそ冷蔵庫なんかは、10年に1回しか買わないもの。それくらいのスパンでやっているんですけど。

笹岡:基本的に、一世帯に一台ですよね。でも、企業には株価を大きく左右する決算発表があって…。そういえば決算発表の時もツイートされたりしていますよね。

山本:株価が下がると、厳しいリプライがくることもあります。初めてそれを経験した時に、製品を買ってくれるお客さん以外の、ステークホルダーの存在を体感しました。そういったリプライをなかったことにするのは簡単ですが、それは違うかなと思い受け止めています。

“毎日“運用して伝える強さ

笹岡:山本さんは、ご自身の成果をどのように考えていますか?

山本:かろうじて自負できることは、アカウントに対しての信頼みたいなものを積み上げられたこと。フォロワー数とかじゃなくて、「こいつの言うことやったら聞いてやろう」「まあ信頼してあげようか」っていう。

なんでできたのかというと、毎日しゃべれたからだと思うんです。これが例えば、1回ツイートするのに3万円かかるといった世界だったら僕はできなかった。タダで毎日やれたからこそ、人格が立ち上がったし、その行動に対する信用度みたいなものが積み上がったので、毎日やれるっていうのはけっこう強いと思っています。

笹岡:従来の広告だと、広告予算内に限られますし、ある期間内は同じCMしか流せなかったりしますよね。

山本:そうですよね。毎日何らかの形で接触し続ける行為は、大事だと思っている。そういう意味では、投資家の皆さんに、ファンドを毎日運用している人の姿を伝えられたら、信用みたいなものが蓄積されていくんだろうなと思いながら笹岡さんの話を聞いていました。「あなたに頼みたい」「この会社に任せたい」というところにつながっていくのではないかと。毎日運用するという点に、シンパシーや可能性を感じました。

笹岡:たしかに、運用成果によって変動する基準価額という数字がウェブサイトや新聞の経済欄に毎日載るだけですね。最後にヒントをいただきありがとうございます。

山本:そういえば、僕の格付けはどうなりましたか?笑

笹岡:広告畑での経験をもとに、独自のノウハウを持ち長期的な目線で取り組まれていることがよく分かりました。あくまで相対評価をしなければならないので明言はできませんが、高い評価になる可能性があります!

山本:そうですか、では僕に投資してください笑

おまけ

笹岡:昨日は対談の予習のために、山本さんの著書『シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』を一気読みしました。

山本:ありがとうございます。

笹岡:あとで、サインもいいですか?

山本:はい笑。



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